あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜
 高校のとき。
 同じクラスになった彼女がいじめられていることにはすぐに気がついた。

 どうするべきか、迷った。
 へたに信士が口を出したり先生に言ったりすると、悪化するかもしれない。だからといって、見過ごすのも気分が悪い。

 自身もいじめられていた。自身のことはどうでも良かったが、他人がいじめられているのは気になって仕方かなかった。

 どうするべきか、ジレンマと戦いながら日々を過ごした。
 剛毅が奏奈のお弁当を取り上げるのを見たとき。
 彼は我慢できずに立ち上がった。

 騒ぐクラスメートの声よりもなお自分の心臓の音がうるさかった。
 弁当の蓋をあけて文句を言いながら食べ始めた彼の前に、信士は立った。
 お弁当をとられた彼女は購買にパンを買いに行っていて、もういない。

「やめろよ」
 それだけしか言えなかった。
 怒りで全身が震えた。
「あ?」
 低い声で威嚇され、信士は睨み返す。

「なんだよ、なにをやめるんだよ」
 笑うように彼は言う。
「春日川さんにかまうのをやめろ」
「お前に関係ねーだろ」
 立ち上がって、彼は言った。
 背の高い彼はイケメンで、睨まれると凄みがあった。

 負けじと睨み返す。
 異変に気がついたクラスメイトが彼らを見た。
 クラスから声がなくなった。
 全員がただこの二人のやりとりを見つめている。

「関係なくても! ダメなことはダメだろ!」
「うるせーよ!」
「彼女は嫌がってた」
「黙れよ!」
 剛毅が信士の襟をつかみ、ぐっと持ち上げる。

 信士は覚悟した。
 ケンカになればきっと負ける。だが、引き下がるなんてできない。
「やめて!」
 彼女の声がして、走る足音がした。
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