あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜
「やめて、なにしてるの」
「こいつがさ、俺が君にかまうのをやめろっていうからさ。関係ないっていうことを教えてやってたんだよ」
 剛毅はけらけらと笑って言った。
 奏奈は顔をしかめて信士を見た。

「……大丈夫だから」
 うつむいて、彼女は言った。
「だから、私のことはほうっておいて」
「こいつだってこう言ってるんだ、さっさと帰れよ」
「だけど」
「本当に、いいから」
 彼女がそう言って、だから彼は引き下がった。

 なにもできなかった。
 無力感が彼を支配した。
 むしろ、助けられたかもしれない。あのまま剛毅と喧嘩にでもなれば、問題児として先生に目をつけられてしまっただろう。
 信士は悔しさに唇を噛んだ。



 放課後、帰ろうとしたときだった。
 信士が下駄箱をあけると、手紙が入っていた。ノートをちぎったようなそれに、短く礼が書かれていた。

 ありがとう、うれしかった。でも、巻き込まれるといけないから、もういいよ。

 名前もなく、それだけが書かれていた。
 彼女だ、とすぐにきがついた。
 なにもできなかったのに。
 自分を認めてもらえた気がしてうれしかった。

 きちんと力になりたい。
 このときから彼は考え始めた。
 暴力に頼らず強い誰かに勝てる方法を。
 そして、法学部への進学を決めた。

 彼女にかばわれ、お礼を言われた。
 そのことで、彼女のことは、彼の心に深く刻まれた。
 気がつけば彼女を目で追っていた。



 驚いたのは卒業式のあとだった。
 帰ろうとした信士を、奏奈が引き止めた。
 奏奈は学校近くの公園に信士を連れて行った。

 公園の花壇にはパンジーが咲き乱れていた。
 日差しは暖かく、だけどまだ冷たい風がさらりと吹きすぎていく。
 桜はまだ咲いていないが、なんとなく枝の先が赤みを帯びているように見えた。

 なんの用だろう、と信士が思っていると、奏奈がなにかを決心したかのように振り返った。
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