あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜
 彼女はまっすぐに彼を見据えて言った。
「好きです」
 信士は驚いた。奏奈に好きになってもらえる理由がさっぱりわからなかった。

 だが、彼女は言った。
「あなたが私を助けようとしてくれたときから、ずっと」
「だけど結局、僕はなにもできなくて」
「助けようとしてくれた。それがうれしかった。だから迷惑でも気持ちだけ伝えたくて。ありがとう。大学でもがんばってね」
 そう言って、彼女は彼に背を向けた。

「待って!」
 思わず呼び止めた。
 彼女は立ち止まるが、振り返らない。

「僕も、好きです」
 彼女の肩がぴくっと震えた。
「だから……」
 つき合ってください。
 そう言ってもいいのか、と迷った。

 だけど、勇気を振り絞った。彼女は彼の勇気を笑わない。それを知っていたから。

「つき合ってください!」
 信士が叫ぶように言うと、彼女は驚いて振り返った。
 顔を赤くしてまっすぐに彼女を見つめる。
 彼女はふわっと笑った。
「うれしい。よろしくお願いします」
 彼女の笑顔は、春の日差しより輝いて見えた。



 こうして、二人は付き合い始めた。
 ずっとつきあい続けて、一年前、ようやくプロポーズをして結婚を決めることができた。半年前には、彼女は彼を支えるために仕事をやめてくれた。

 あのときは守ることができなかったけど。
 彼はほろ酔いで鼻歌を歌う彼女の肩を抱く。
 彼女はにこっと笑って彼を見上げる。

「奏奈、幸せにするから」
「ありがとう。うれしい」
 彼女は彼に頭をもたせかける。
 彼は彼女の頭をぽんぽんと軽く叩いた。

 夜の闇はすべてを包んでいる。
 だが、彼の明かりはこの手の中にある。
 この先は絶対に彼女を守り続ける。なにがあっても。
 彼は固く誓い、彼女の肩に置いた手に力を込めた。




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