あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜
 席替えをするとなぜか隣の人と席を交換して来て、宿題を写させろとからまれ、教科書を忘れたから見せろと強要された。暴力はなかったが、ブス、デブ、豚、と毎日のように罵られた。

 彼はヤンキーっぽくて怖かったから、誰も彼女を助けようとはしてくれなかった。
 一度だけ、奏奈をかばって彼に逆らった人物がいたが、一度だけ、その一人だけだった。

 毎日が怖くて仕方なかったが、学校にはきちんと行った。風邪で休んだときに家の近くに彼がいるのを見かけて、怖かったから。それ以来、学校は休まず出席した。

 三年になってクラスが別れてほっとした。
 会うたびに悪口は言われたけど、クラスが違うから普段は平和に暮らせた。
 高校を卒業して以来、彼に会うことはなかった。
 


 同窓会に来たら会うことになるのはわかっていた。
 だけど、それでも来たのにはわけがある。
 幹事の間口和馬(まぐちかずま)はなぜか彼と奏奈を隣同士に座らせた。

 彼が奏奈をいじめていたのは知っているくせに。
 恨みがましく和馬を見るが、彼はいっこうに気にした様子がなかった。

 剛毅はあのときもイケメンだったが、今でもイケメンだった。明るい茶色の髪はさわやかに整えられ、ぱっちりした目は悔しいが魅力的だ。カジュアルな服装は清潔感があって好印象だ。
 だが、その中身は、と奏奈は苦く思う。

「へえ、豚女がきれいになったじゃん」
「どうも」
 奏奈は短く返す。
 あれから彼女はメイクを猛勉強した。豚だのブスだの言われたのはつらかった。どうにかしてきれいになって自信を取り戻したかった。
 そして、そのまま美容の道に進んだ。

「こんなきれいになるとは思わなかったよなあ」
 和馬が言う。すでに酔っ払っていてごきげんだ。

「会えて嬉しいだろ」
 和馬が剛毅に言う。
「なっ! お前、なに言ってんだよ!」
「こいつさあ、高校の時、すっごい絡んでたじゃん? あれ、わけがあってさあ」
 和馬が言う。
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