あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜



 奏奈が来るより少し前。
 信士は困惑していた。
 同窓会に参加したら、かつて自分に攻撃的だった女子たちが、媚びるようにして自分をとりかこんでいる。

 こうなることを予言していた人がいるが、本当にその通りになるとは思っていなかった。

 お弁当にチョークの粉をかけられ、ノートを汚され、教科書に低俗な落書きをされた。悪口は呼吸と同じくらい自然になげかけられた。当時の彼女らには、彼になにをしてもいいと思っている気配があった。

 あのときのまま、彼女らは彼を下に見ているのだということはすぐにわかった。当時、抵抗なくいじめられていた彼に、彼女らはまだ自分たちのほうが優位だと思いこんでいる。

 信士は反論も反抗もしなかった。ただじっと、嵐が過ぎるのを待っていた。
 どうせ高校の一時のことだ。大学は彼女らが行けないようなハイレベルなところへ行く予定で、この地方からは出ていく予定だ。暴力的ないじめではないのだから、しばらくの我慢ですむだろうと思っていた。

 屈辱を感じないわけではない。いわれのない暴言、嫌がらせ、それらは彼の精神を着実に削る。
 ただ、もめたくないのだ。もめるのはさらに彼の精神を削る。

 彼女らより自分が強いことを理解していたこともまた、彼が彼女らに抵抗しなかった理由の一つだ。実行はしないが、暴力を使えば、きっとあっさり彼女らに勝つ。

 だがら自分へのいじめは平気だった。
 だが、それ以外は。

 ただ一度だけ、信士は行動を起こしたことがある。
 あのときのできごとは彼をうちのしめした。

 女性が入ってきて、会場がざわついた。

「あんなきれいな子、クラスにいたっけ?」
「春日川だってよ」
「まじか」
 周囲の男どもがざわついている。

「やだ、男って、整形もわからないのね」
 女子の一人が言う。声には明らかな嘲りがあった。
「そういうことを言うのは良くないよ」
 信士がやんわりと言うと、彼女はやだー、と声を上げた。
「やっさしい! さすが!」

「整形なんて最悪じゃない。人を騙してるんだから」
 高校時代、学年一の美少女と言われていた魅璃華が言う。カースト上位で、いつも信士をいじめていた。いまや信士にしなだれかかり、自分のものとでも言いたげだ。
 信士は答えず、なにか考えるように奏奈の方を見ていた。
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