あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜

「魅璃華は美人だからいいよねえ」
「その上、デザイン会社のデザイナーだもんね」
 魅璃華のとりまきの女子が言う。
 それからひとしきり魅璃華を持ち上げる話題が続いた。美人、かわいい、すてき。それらの賛辞に彼女はまんざらでもない顔をする。

 が、信士はまったく聞いていなかった。剛毅と話す奏奈を見つめている。

「ねえ」
 肩をゆすられて、彼は思考から戻った。
「あ、なんだっけ」
「このあと、予定ある? 二次会行くよね?」
「行く予定はないな」

「やっぱ弁護士って忙しい?」
「忙しいよ」
「じゃあ恋人ができてもデートする暇なんてないね」
「恋人は今はいないなあ」
「そうなんだ」
 魅璃華の目がぎらっと輝く。

「私も彼氏いないの。だったらさ……」
 そのときだった。

 急にしんとなって、彼は顔をあげた。
 気がつくと、剛毅と奏奈が立ち上がっていた。
 二人はただならぬ雰囲気で熱く見つめ合っていた。

「好きだ、つきあってくれ!」
 剛毅が頭を下げる。
 奏奈は驚いて彼を見下ろしていた。



 答えない奏奈に、剛毅は顔を上げた。
 奏奈は顔をひきつらせていた。
「ありえないんですけど!」
 彼女は叫んだ。

「なんかいい話みたいにまとめようとしてるけど、ぜんぜんいい話じゃないから! 自分をいじめた男とつきあいたいなんて女が、この世のどこにいると思うの?」
 奏奈は嫌悪もあらわに言う。

「だから、それは君を守るためだったんだって、説明したじゃん」
 和馬が言う。
「きもい! 守るためって言えばいじめたことが許されると思うの? バカじゃないの? ほかにも方法あるじゃん。理由がなんだろうといじめはいじめだし、私は傷ついたんだから!」
 会場はもはや静寂に包まれていた。
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