あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜
「私が毎日どれだけ辛かったと思うの? みじめでみじめで、辛かった。好きでもない男のために毎日お弁当作って、奴隷みたいだって思った。なのに好きだったとか言われて、はいそうですかってなるわけないじゃん!」
「そんな……」
 剛毅は青ざめた。

「君のために、あんなに……」
「それがきもいの! 普通に助けてくれたら良かったはずじゃない! 現に、そうしてくれた人もいたんだから!」
 奏奈はそう言って信士を見る。
 信士はすっと立ち上がった。

「あんなに気を使ってやったのに!」
 剛毅は彼女を怒鳴りつける。
 ビクッと震えた彼女は、それでも言い返す。

「それがあなたの本性よ。結局、いいことしてるつもりの自分に酔ってただけよ」
「ふざけんな!」
 手を振り上げた剛毅に、彼女はとっさに目を閉じて身構える。

 が、その手が振り下ろされることはなかった。
 信士が彼の手を掴んでいたからだ。

 信士は剛毅の手を離し、二人の間に割って入る。
「大丈夫?」
 剛毅は彼女に尋ねる。
「うん、ありがとう」
 彼女はホッとしたように言う。

「なんだよてめえ」
「やめろよ。いまのは暴行未遂。目撃者はここにいる全員。彼女が警察に言えば、君は逮捕されてもおかしくないぞ」
 彼の毅然とした物言いに、剛毅は怯んだ。
 実際にはいちいち逮捕はしないが、素人の剛毅には充分な脅しになったようだった。

「昔のままの力関係にすがって発言するとは成長がないな。彼女は自分のものだとでも錯覚していたのか」
「黙ってろ、クソメガネ!」
「今のは侮辱罪に該当するな」

「エセ弁護士が!」
「エセではないが……俺が弁護士であること、裁判所で再会すれば理解してもらえるかな?」
 彼はニヤリと笑う。
 訴訟も辞さない彼の物腰に、剛毅はまた怯んだ。
< 7 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop