あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜
「それから、俺はもう婚約してるから、君とどうにかなることはないよ」
「恋人いないって言ったのに、嘘じゃん!」
「嘘じゃないよ。婚約者がいるから恋人なんていないんだから」
 隣にいる奏奈がくすくすと笑う。

「まさか、婚約者って」
「私よ」
 彼女はにっこりと笑う。

「明日はホーリーウインストンに指輪を取りに行くの。式はさ来月、東京マウスランドで挙げて、ハネムーンは一ヶ月かけてヨーロッパ一周。楽しみね〜!」
 信士の腰に手を回して奏奈が言う。

 魅璃華は唖然として二人を見る。
 が、気を取り直したように奏奈をにらんだ。
「男の金で豪華な式とかハネムーンとか指輪とか、ださ!」
「資金は全部、彼女が稼いだよ。美容のネット動画の収入で」
 信士が言うと、魅璃華は目を丸くして絶句した。

「そうそう、ふたりとも嘘はよくないよ。苫田さんはデザイン会社の雑務のバイトよね。古江さんは一流広告会社の清掃員のバイト。お仕事頑張ってね!」
 奏奈はまたにっこりと微笑んでから、信士とともに店を出た。



「みんな、相変わらずだったね」
 店を出て、彼女は笑う。
「気は済んだ?」
「ええ。ありがとね」
 彼女は信士の肩に頭を乗せる。

 同窓会に行くことに、彼は気乗りしなかった。
 だが、彼女が言ったのだ。みんなを見返してやろう、と。
 いじめをするような人が反省するとは思えなかったし、こちらを見直すなんてことがあるとは思えなかった。彼女がまた傷つくだけだと思い、行くのは賛成できなかった。

 だが、彼女は気持ちにケリをつけたい、と言う。
 ならば、と彼もまた参加した。なにかあったときにすぐに守れるように。
 高校のときとは違う。あのときの無力な自分とは。
 今なら法律を武器に戦うことができる。

 きっと弁護士だと知ったら手のひらを返して女性からはモテるし、男たちからも一目置かれるよ、と彼女は言った。その通りだった。

 ダサい見た目はこの日までに彼女がかっこよく整えてくれた。イケメンになりすぎ、と彼女がボヤいたのが面白かった。
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