エリート会長は虐げられ秘書だけを一途に溺愛する
「……え? あ、いえ、私は会議に出席できるような人間では」
気を遣われたのだろうか。だとしても、こんな気を遣われたかたは初めてだ。
状況が掴めないでいると、凛々しい瞳が真っ直ぐ私を射貫いた。
「今日の会議の内容について君の意見を聞きたい、花宮杏子」
するりと呼ばれたその名を、この人が知ってるはずもない。
「私の名前をなぜ──」
そう切り出せば、予告通り重役たちが続々と会議室に入り、中にいた男性を見て足を止めた。
「新会長! すでにいらっしゃっていたのですか」
仰々しい口調とともに、自分よりも一回りも二回りも年下の男性に敬意を払うような態度を見せる。
この人が……会長?
「目の前にいらっしゃるのは、神崎千隼様です。前会長である宗吾様のご子息になります」
すると、大林さんがそっと耳打ちをするように教えてくれた。
「教えていただきありがとうございます」
「いえ、花宮様にはまだお伝えしなければならない情報がございますので」
「情報ですか?」
「ええ、後ほど千隼様からお話があるかと」
なぜ新会長が私に話があるというのだろう。
初めて会ったはずの私の名を知っていた。あろうことか会議にも出席するようにとまで。
その理由がここで明かされるのだろうか。
「時間がない。早く始めてくれ」
挨拶があるのかと思っていたが、新会長はこれまで自分が出席してきたかのように切り出した。
その言葉を受け、早々に席に着いた上層部の人たちは、ちらりと私を見ては訝しんでいる。なぜこの女がいるんだ、と思われているのがありありと伝わってくるが、私もそれがわかっていればもう少し居ずまいを堂々とできたはずだ。
所在なく、会議室の出入口付近に立つ。
ひとつ、またひとつと進行している企画の進捗状況があがる。それまで、新会長が口を開くことはなかったが──
「えー続いて新しい住宅開発プロジェクトのご提案をさせていただきます。資料2にありますように、現在は地方都市での需要が高まっているため、その地域での住宅供給を拡大することが重要です。こちらは地元地元自治体との連携が欠かせませんので検討を重ね──」
「この地域の一部は個人所有だったはずだが」
唯一、今日の会議の中で一番規模が小さいであろうプロジェクトに口を開いた。
「買収が難航する可能性を視野に入れて話は進んでいるのか」
「そ、それは……法務部とも現在調査中でして」
担当者も困惑の色を見せている。おそらく、新会長が自分のプロジェクトなど興味がないと思っていたのだろう。
ぼそぼそと上層部の囁きが聞こえてくる。
「おい、新会長はこのプロジェクトを知らないはずだろう?」
「なぜ地方まで把握しているんだ」
あちこちから上がってくる声を前にして、新会長が立ち上がる。
「仮に強行突破するような事態にでもなれば、このプロジェクトは白紙にする」
「そ、それは……! 前会長は、いかなる手段があっても買収しろとのことでご意向で」
「今の会長は俺だ。話は以上のようだな」
会議室を出て行こうとする新会長だったが、室内の隅に立っていた私を見ては一緒に来るようなサインを見せた。
気を遣われたのだろうか。だとしても、こんな気を遣われたかたは初めてだ。
状況が掴めないでいると、凛々しい瞳が真っ直ぐ私を射貫いた。
「今日の会議の内容について君の意見を聞きたい、花宮杏子」
するりと呼ばれたその名を、この人が知ってるはずもない。
「私の名前をなぜ──」
そう切り出せば、予告通り重役たちが続々と会議室に入り、中にいた男性を見て足を止めた。
「新会長! すでにいらっしゃっていたのですか」
仰々しい口調とともに、自分よりも一回りも二回りも年下の男性に敬意を払うような態度を見せる。
この人が……会長?
「目の前にいらっしゃるのは、神崎千隼様です。前会長である宗吾様のご子息になります」
すると、大林さんがそっと耳打ちをするように教えてくれた。
「教えていただきありがとうございます」
「いえ、花宮様にはまだお伝えしなければならない情報がございますので」
「情報ですか?」
「ええ、後ほど千隼様からお話があるかと」
なぜ新会長が私に話があるというのだろう。
初めて会ったはずの私の名を知っていた。あろうことか会議にも出席するようにとまで。
その理由がここで明かされるのだろうか。
「時間がない。早く始めてくれ」
挨拶があるのかと思っていたが、新会長はこれまで自分が出席してきたかのように切り出した。
その言葉を受け、早々に席に着いた上層部の人たちは、ちらりと私を見ては訝しんでいる。なぜこの女がいるんだ、と思われているのがありありと伝わってくるが、私もそれがわかっていればもう少し居ずまいを堂々とできたはずだ。
所在なく、会議室の出入口付近に立つ。
ひとつ、またひとつと進行している企画の進捗状況があがる。それまで、新会長が口を開くことはなかったが──
「えー続いて新しい住宅開発プロジェクトのご提案をさせていただきます。資料2にありますように、現在は地方都市での需要が高まっているため、その地域での住宅供給を拡大することが重要です。こちらは地元地元自治体との連携が欠かせませんので検討を重ね──」
「この地域の一部は個人所有だったはずだが」
唯一、今日の会議の中で一番規模が小さいであろうプロジェクトに口を開いた。
「買収が難航する可能性を視野に入れて話は進んでいるのか」
「そ、それは……法務部とも現在調査中でして」
担当者も困惑の色を見せている。おそらく、新会長が自分のプロジェクトなど興味がないと思っていたのだろう。
ぼそぼそと上層部の囁きが聞こえてくる。
「おい、新会長はこのプロジェクトを知らないはずだろう?」
「なぜ地方まで把握しているんだ」
あちこちから上がってくる声を前にして、新会長が立ち上がる。
「仮に強行突破するような事態にでもなれば、このプロジェクトは白紙にする」
「そ、それは……! 前会長は、いかなる手段があっても買収しろとのことでご意向で」
「今の会長は俺だ。話は以上のようだな」
会議室を出て行こうとする新会長だったが、室内の隅に立っていた私を見ては一緒に来るようなサインを見せた。