エリート会長は虐げられ秘書だけを一途に溺愛する
ついてこいってことだよね……?
颯爽と歩く背を追いかけては、そのまま会長室に入るよう促された。
大林さんも一緒だったが、会議室の扉を開けただけでそれ以上中に入ることはなかった。
ここは、会社でも限られた人間しか立ち入ることができない部屋だ。
私のような身分が入っていい場所ではない。
ジャケットを脱いではハンガーにかけるその姿を見ては、気になっていたことを口にする。
「あの、会社が進めているプロジェクトは全て把握されているのですか……?」
「もちろんだ。俺が上に立つ限りそれは当たり前のことだろう」
新会長の指摘がなければ、あのまま進んでいただろう。そして強行突破もしていたかもしれない。そこで問題が起こったとしてもお金で解決してしまうようなことは少なくなったと聞く。
「君はさっきの件をどう思う」
「……反対されている方がいらっしゃる場合は、最善を尽くす形で話ができたらとは思います」
それがどう転ぶかは分からない。それでも、”いかなる手段があっても買収しろ”という指示に、喜んで賛同したい気持ちはない。
新会長は、また「そうか」と受け止めただけで、それ以上を言うことはなかった。
「それで……会長、私はどうしてここに」
「千隼でいい」
「え?」
「会長は、ただの肩書きだ。千隼でいい」
「そういうわけには……! どうかせめて神崎様と」
「千隼だ。様もいらない。そして同じ説明は二度しない」
花が好きなのか、と聞かれた声とは、まるで別人だった。
冷たく、身震いしてしまいそうな残酷さがある。
「……では、千隼さん。大変恐れ入りますが、私がここに呼ばれた理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「理由は、君に今日から俺の秘書を務めてもらうからだ」
「……秘書?」
「心配せずとも昇給の手配はもうすでに済ませている。業務は今日からでも構わないが、いろいろと引継ぎもあるだろう。急ぐことはない」
「あ、あの、どういうことなのかさっぱり……」
「引っ越しをするなら日程だけは伝えておくように」
どんどんと話だけが進んでいくのに、私の頭は置いていかれるばかり。
座ってしまえばどこまでも沈んでしまいそうな高級な社長椅子。そこに深く、けれでも姿勢良く腰をおろした千隼さんは、すでに山積みとなっていた資料を手に取る。
「え、ええと……引っ越しの話と仕事の話はどう関係があるのでしょうか?」
文字を追っていた目の動きが止まる。
そこで始めて、千隼さんは「ああ、そうか」と納得したようにうなずいた。
「知らないだろうが、君は婚約中である身だ」
そうして明かされた婚約相手におどろくしかない。
顎に触れた千隼さんの指。そこから伝わる体温に意識が持っていかれる。
それから私の目の、その奥の真意を見抜くように見ては、ふっと熱が離れていった。
「君の亡き父と交わした契約だ。俺が会長を引き継いだあかつきに、君と婚約することが決まっていた」
「父をご存知なのですか……? いや、そもそも婚約などといった話を父から聞いたことはありません」
颯爽と歩く背を追いかけては、そのまま会長室に入るよう促された。
大林さんも一緒だったが、会議室の扉を開けただけでそれ以上中に入ることはなかった。
ここは、会社でも限られた人間しか立ち入ることができない部屋だ。
私のような身分が入っていい場所ではない。
ジャケットを脱いではハンガーにかけるその姿を見ては、気になっていたことを口にする。
「あの、会社が進めているプロジェクトは全て把握されているのですか……?」
「もちろんだ。俺が上に立つ限りそれは当たり前のことだろう」
新会長の指摘がなければ、あのまま進んでいただろう。そして強行突破もしていたかもしれない。そこで問題が起こったとしてもお金で解決してしまうようなことは少なくなったと聞く。
「君はさっきの件をどう思う」
「……反対されている方がいらっしゃる場合は、最善を尽くす形で話ができたらとは思います」
それがどう転ぶかは分からない。それでも、”いかなる手段があっても買収しろ”という指示に、喜んで賛同したい気持ちはない。
新会長は、また「そうか」と受け止めただけで、それ以上を言うことはなかった。
「それで……会長、私はどうしてここに」
「千隼でいい」
「え?」
「会長は、ただの肩書きだ。千隼でいい」
「そういうわけには……! どうかせめて神崎様と」
「千隼だ。様もいらない。そして同じ説明は二度しない」
花が好きなのか、と聞かれた声とは、まるで別人だった。
冷たく、身震いしてしまいそうな残酷さがある。
「……では、千隼さん。大変恐れ入りますが、私がここに呼ばれた理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「理由は、君に今日から俺の秘書を務めてもらうからだ」
「……秘書?」
「心配せずとも昇給の手配はもうすでに済ませている。業務は今日からでも構わないが、いろいろと引継ぎもあるだろう。急ぐことはない」
「あ、あの、どういうことなのかさっぱり……」
「引っ越しをするなら日程だけは伝えておくように」
どんどんと話だけが進んでいくのに、私の頭は置いていかれるばかり。
座ってしまえばどこまでも沈んでしまいそうな高級な社長椅子。そこに深く、けれでも姿勢良く腰をおろした千隼さんは、すでに山積みとなっていた資料を手に取る。
「え、ええと……引っ越しの話と仕事の話はどう関係があるのでしょうか?」
文字を追っていた目の動きが止まる。
そこで始めて、千隼さんは「ああ、そうか」と納得したようにうなずいた。
「知らないだろうが、君は婚約中である身だ」
そうして明かされた婚約相手におどろくしかない。
顎に触れた千隼さんの指。そこから伝わる体温に意識が持っていかれる。
それから私の目の、その奥の真意を見抜くように見ては、ふっと熱が離れていった。
「君の亡き父と交わした契約だ。俺が会長を引き継いだあかつきに、君と婚約することが決まっていた」
「父をご存知なのですか……? いや、そもそも婚約などといった話を父から聞いたことはありません」