どこの誰よりも、先生を愛してる。
悔しい、物凄く悔しい。
やっと河原先生と両想いになったのに。
あんなに届かなかった私の想いが、やっと河原先生に届いたのに。
どうしても超えられない年齢の壁に邪魔をされるなんて。
「悔しい……悔しいよ……」
先生の胸に顔を埋めて、絞り出すように言葉を出した。
全身で感じる先生の体温にまた哀しみを覚える。
「……なぁ、平澤。お前が学校を卒業して、また俺とお前がどこかで再会して、その時まだ俺のこと好きでいてくれたならさ。今度こそは必ず付き合おう」
「………」
「運命なら、年齢差なんて超えられる気がしているんだ」
「……何それ」
またどこかで、なんて。そんな不確定な言葉。
ここを卒業したら、会える確率なんてかなり低くなるのに。
「先生、酷い。そんなの、ずっと先生のこと好きでいるに決まってるのに……。もし死ぬまで出会えなかったらどうするのですか」
「……いや。そうだな、ごめん。今のは平澤を呪縛する言葉になってしまう」
私を抱きしめたままの先生。
そっと頭を撫でながら、言葉を継いだ。
「訂正だ。卒業して、普通に生活して、誰か他の人を好きになったら、その時は自分の気持ちに素直になりなさい。ただ、もしその人生の途中で俺と再会したら……今度は、俺がお前を落とす。そしてまた両想いになれたら、その時は絶対に付き合おう」
「………」
何それ。
そんな馬鹿な話……。
河原先生以上に好きになる人なんて出会うはずがないのに。
「先生の馬鹿」
「そうだな、俺は馬鹿だ……」
「こんなにも先生のことが好きなのに」
「あぁ……俺も、平澤のことが好きだよ」
私の頭を撫でていた先生の手が移動し、そっと頬に触れられる。
「先生……」
「平澤、愛してる」
そう言って、先生はそっと唇を重ねた。
「……っ」
自分でも考えられないくらいの涙が零れ落ちる。
恐らく最初で最後であろう、河原先生とのキス。
そっと触れただけの優しいキスだったけれど、甘く残る先生の唇の感覚に涙が全く止まらなかった。