どこの誰よりも、先生を愛してる。


 元々、将来の夢なんて無かった。
 やりたいことも無かったけれど……。



「……まさかですけど、教師になれば卒業後も河原先生に会えるかもしれないとか。そういうこと思っていますか?」
「はい、そのまさかです。私、県立高校の教師になって、必ず河原先生と再会します」
「………」



 そう言うと、柚木先生は呆れたように大きな溜息をついた。




 河原先生と両想いになったのに付き合っていないということは、柚木先生にも話していた。

 卒業して再会できたら付き合おう、そう言われたことも……話している。




「……国語教師になりたい理由が”河原先生と再会”なら、勉強はお教えできませんね。動機が不純です」
「そこを何とか!」
「大体、僕は今も貴女のことが好きなんですよ。分かっていますか?」
「……分かりません」
「貴女って人は……」



 グイっと顎を掴まれて、無理やり目を合わせられる。

 少し力が宿っている柚木先生の目に、ほんのちょっとだけドキッとした。


「一時の感情で、将来の夢は決めるものではありません」
「……なんか、教師みたいなこと言いますね」
「教師ですけど」


 私から手を離し、再び草を抜く柚木先生。


 一時の感情かどうかは分からないけれど、教師になりたいという夢は悪くないと思う。


「私が教師になったら、柚木先生と一緒にお仕事ができるようになるんですかね」
「……まぁ、同じ学校に赴任できれば、ですけどね。……河原先生もそうですけど、独身は県内全域が異動範囲ですから。同じ県立高校の教師とは言え、難しいと思いますけど。再会」
「また、夢の無いことを言う」
「現実をお伝えしているだけです」
「……」



 柚木先生の言葉に、思わず溜息が漏れる。

 協力が得られないのなら、仕方がない。



 自分で決めた目標に向かって、自分自身で頑張るのみだ。
 教職課程のある大学に進学して、勉強して、絶対に県立高校の教師になるんだから……!


 そう意気込んで陰でこっそりガッツポーズをすると、柚木先生は呆れたように声を上げた。


「……平澤さん」
「はい?」
「……分かりました」
「?」
「いつか貴女と一緒に仕事が出来る日を夢見て、僕も力を貸しましょう。その代わり。河原先生と平澤さんが再会出来ないことを願い、それが成就した暁には、僕と結婚しましょう」
「はぁ!?」
「キスまでしたのに、嫌ですか?」
「それとこれは、別問題です!」
「えぇ……」




 なんて言いながら。


 その後、ボランティア部の活動に相まって、国語の補習も行ってくれた。








 高校生活残り1年間。


 毎日毎日、国語の勉強を積み重ねて。
 それと同時進行で、大学入試の対策もして。










 数か月後。

 私は無事……第1希望の大学に、合格をした。






< 107 / 116 >

この作品をシェア

pagetop