どこの誰よりも、先生を愛してる。
「平澤さん、係は何かやるのですか?」
「得点することになりました」
「え、得点ですか」
放課後のボランティア部。今日も柚木先生と校舎周りの草抜きをしていた。
「それは、狙ってのことですか?」
「どうでしょうね」
私の気持ちも、河原先生が得点の担当ということも知っている柚木先生の意味深な一言。
別に狙っていなかったし、係なんてやる気も無かった。河原先生が担当だと言わなければ、絶対に立候補なんてしていない。
「……平澤さん」
先生は草を抜く手を止め、私の顔を見た。
言うか、言わないか。
それを悩んでいる感じの先生は、小さく溜息をついた。そして、意を決したように言葉を継ぐ。
「僕に止める権利はありませんが、それでも言わせて下さい。……河原先生を追っては駄目です。この先は、平澤さんが傷付く未来しかありません」
いつになく真剣な表情の柚木先生。本気の眼差しに、思わず体が震えた。
そんなこと、分かっている。言われなくたって、分かっている。また“幼い私”が熱を持ち始め、感情が高ぶり始める。
「分かっています。そんなこと、分かっていますよ」
抑えられない感情。
つい、思いを全て言葉にしてしまった。
「そんな風に言うなら柚木先生、教えて下さい。どうすれば好きな気持ちを無くすことができるのですか? 好きすぎて毎日毎日苦しいこの気持ち、河原先生のことが好きな気持ちを無くすにはどうすれば良いのですか!!」
勢い良く立ち上がり、柚木先生の顔を睨むように見つめる。
柚木先生は、酷く驚いた表情をしていた……。
「……」
2人して俯き、黙り込む。
柚木先生に当たるなんて、私は最低だ。
柚木先生も愛理や圭司と同じ。
私を心配してくれているのに……。
そんなこと考え、自己嫌悪で胸がいっぱいになっていると、突然背後から声が掛かった。
「……平澤、声がでかい」
「かっ……」
河原先生……。
その姿を見ると、堪えていた涙が一気に溢れてきた。しかも、その涙は止まる気配が無い。
「河原先生、タイミングが最悪ですね」
「タイミングも何も……タバコ吸ってたら聞こえてきたから」
「それは聞こえないフリをするべきでした」
柚木先生は河原先生を軽く睨み、言葉を継ぐ。
「平澤さん、部室に戻りましょう」
「……え」
「草抜きはおしまいです」
そう言って柚木先生に腕を引っ張られ、無理やり校舎内に連れて行かれる。
残された河原先生は何も言わないまま、その場に立ち尽くしていた。