どこの誰よりも、先生を愛してる。
あたふたしたままの柚木先生は、私と河原先生の腕を引っ張って言った。
「こ、国語科準備室が近いです。戻りましょう」
ダッシュする柚木先生に引っ張られて、部屋に入る。柚木先生は大きな溜息をついて、私と河原先生を交互に見つめた。
「危ない……。勘弁して下さいよ。というか、また3人が揃うんですね」
「……」
そんな柚木先生の言葉に、誰も反応しない。
部屋の扉を閉めると同時に、また河原先生は私を抱きしめた。
「平澤、これは夢か?」
「夢ではありません」
「運命ってこと?」
「私の努力の賜物です。……今日この学校で再会できたのは、運命ですけど」
「……」
河原先生、泣き止む気配が無い。
久しぶりに会った先生は、見たことが無いくらい号泣をしていた。
「……平澤さん。僕、1人で荷物を運んで来ます。……ごゆっくり」
そう言って、国語科準備室から出て行った柚木先生。
扉が閉まる音を聞くと、河原先生はより一層、抱きしめる腕に力を入れた。
「柚木先生も、今日から赴任?」
「そうですよ。柚木先生も河原先生も、まさか同じタイミングで来るなんて……」
「今日からにしては、平澤と親しげに話すんだな……。久しぶりの再会では無いのか?」
「会うのは6年ぶりです。でも、連絡はずっと取っていました。……私の恩師なんです、柚木先生。私、柚木先生が居なかったら、今ここに居ません」
「……恩師」
「柚木先生のおかげで、国語教師になれました」
「……そうか」
何だか複雑そうな様子の河原先生。
眼鏡を外したままで目を真っ赤にしている様子に、こちらまで涙が零れ落ちる。
「……言ってくれたら、数学教えたのに」
「数学は願い下げですね。……大体、高校卒業して再会したらなんて言い出したの、先生の方でしょう。その後なんですから、教師を目指し始めたの」
「……そうだったな」
「必死でした。河原先生と再会する。その思い1つでここまで来ました」
「……」
ギュッと抱きしめたまま動かない河原先生。身体を震わせて今も泣いている。
「ねぇ、先生。宜しければ、仕事が終わってからお話をしませんか。積もる話も沢山あります」
「そうだな。俺もお前と、色んなことを話したい」
久しぶりに感じた河原先生の体温。
力強い腕に抱きしめられ、私の努力が実を結んだ気がした。
何も変わっていない。
あの頃のままの河原先生……。
好き。
愛おしい……。
「……」
私と河原先生は柚木先生が戻ってくるまで、ずっと2人で抱きしめ合っていた。