どこの誰よりも、先生を愛してる。

埋め合わせ



 仕事終わり、学校から少し離れた小高い丘にある公園で、河原先生と待ち合わせた。
 車でなければ上がれない公園だ。


「……平澤」

 少し離れた場所から私の名を呼ぶ声。……何も変わっていない。大好きな人の声。


「河原先生」


 愛おしい人の名前を呼びながら、小走りで駆け寄り、そのまま勢いよく抱きついた。


「平澤」
「先生」


 先生も私に腕を回し、抱きしめてくれる。その力強い腕が嬉しくて、つい涙が滲む。


「……平澤。教師になるって、教えてくれても良かったのに」
「言えませんよ。高校最後の1年、先生とは最低限の会話しか出来なかったのですから……」
「……そうだったけれども」


 聞きたいこと。
 話したいこと。

 沢山あるのに。久しぶりすぎて、何1つ出てこない。


「……ベンチ座ろうか」
「はい」


 手を握り、共に向かう最中ふと見上げた、隣にいる河原先生の顔。


「……」


 それに気付いた先生もまた私の顔を見た。
 優しく微笑んでいる先生の様子に……こちらも微笑みが零れる。



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