どこの誰よりも、先生を愛してる。



 夜景が見えるベンチを見つけた。

 そこに、河原先生と腕をピッタリとくっつけて座る。





 そこからは先生と、沢山の話をした。





 教師になるまでの過程。


 教師になってからの日々。


 柚木先生のこと。


 愛理と圭司のこと。




 昔の私を知っている人。


 1つなにか話題を切り出せば。
 話すことは無限に湧き出る。






 河原先生からも、聞いたことが無かった『先生自身』の話を聞いた。






 先生が教師になった経緯。


 趣味、特技。


 好きなこと。


 嫌いなこと。


 そして……元嫁のこと。





 河原先生の元嫁は、元生徒だったらしい。


 保育士になった元嫁と結婚したのは良かったけれど、暫くすると向こうが保育園で保護者と不倫関係になったとのことだ。


 それで結婚して3年後に離婚して、ずっと1人だったみたい。




「もう、いい歳という年齢すら過ぎて、今更恋なんてしなくて良いと思っていた。それなのにまた、隣に……元生徒」
「元生徒……ですね」
「けれど、お前は凄いよ。完敗だ。まさか教師にまでなるなんて、想像もしていなかった」
「……だって、こうしないと。死ぬまで河原先生に会えないじゃないですか。私も、本当に必死だったんです」




 ギュッと手を握られ、ふと顔を見上げる。また泣きそうな表情をしている先生に、そっと頭を撫でられた。




「なぁ平澤、何歳になった?」
「……28歳です」
「……お互い歳を取っても、俺とお前の年の差は埋まらない。俺は52歳になってしまった。24の年の差は、どうやっても埋められないんだ」
「……」
「それでも、本当に俺で良いのか? 今更俺の言えたことでは無いけれど、柚木じゃなくて……本当に良いんだな?」
「………………」



 本当に、馬鹿げたことを言う。
 教師にまでなった私の本気さを、まだ素直に受け止めてくれない。



「……どこの誰よりも、先生を愛してる」

「私、河原先生以外、考えられない。その結果が、今この瞬間でしょう」



 ふと、涙が零れ落ちた。
 高校の時の淡い感情が蘇り、胸が熱くなってくる。


 そして私は、全ての始まりである”あの言葉”を河原先生に投げかけた。


「河原先生、好きです。付き合って下さい」


 あの時は速攻振られて、悲しい思いをした。
 衝動的にとはいえ、何度も何度も、告白したこと自体を悔やんだ。


 だけど、今は違う。

 今の河原先生の返答は、あの頃と違う物だった。


「……年齢差で、この先は苦労ばかりだと思う。不安になることも、辛いことも沢山あると思う。どうしても、俺の方が先に死ぬし」
「……」
「でも、それでも平澤が良いと言ってくれるなら付き合おう。俺だってあの時からずっと、お前のことが好きなんだから」
「…………」
「好きだ、平澤」
「私も好きです。河原先生……。年齢差なんて、もうそんなの今更すぎます」




 どちらからともなく顔を近づけ、そっと重ねられる唇。




「……」
「……」




 見つめ合って微笑んだ後

 何度も、何度も

 これまでの時間の埋め合わせかと思うくらい



 お互い泣きながら、何度もキスをした──―……。






< 114 / 116 >

この作品をシェア

pagetop