どこの誰よりも、先生を愛してる。
「うーん、ミネラルウォーターしかないですね」
部室に戻った私と柚木先生。
私を椅子に座らせてくれた先生は、こっそり置いている小さな冷蔵庫を漁っていた。
「……平澤さん、河原先生はああいう人です。相手の気持ちなんて、考えてはくれません」
「………」
ミネラルウォーターを2本取り出し、1本を私に手渡してくれた。
冷たくて、心地よくて、つい頬に当ててしまう。
柚木先生は悲しそうに小さく微笑み、目線を少し下に向けた。そして蚊が鳴くような声で呟く。
「河原先生は止めておいた方が良いです。年があまりにも離れていますし、河原先生が応えてくれる可能性なんてゼロです。……僕は、貴女を心配して言っています」
柚木先生はまた、本気の眼差しをしていた。その様子に、再び涙が込み上げてくる。
「……分かってますよ、そんなこと。柚木先生に言われなくても、頭では分かっています!!」
指摘をされればされるほど、感情的になってしまうのを抑えられない。本当に子供な自分が嫌になる。
言った後に後悔し、また自己嫌悪。
柚木先生は小さく溜息をついて椅子に座り、腕を組んでいた。
「……先程の河原先生のことが好きな気持ちを無くすにはどうすれば良いかって、話ですけれど。無理して無くすというよりは、他に目を向けてみてはいかがでしょうか。案外近くにいます」
「…………」
柚木先生も、河原先生と同じことを言う。他に目を向けろって。
違う、違うの。
他なんて興味が無い。
私は、河原先生が良い。それ以上も以下も無い。
この想いを誰かに理解して貰おうとは思っていない。だけど、“私は河原先生が好き”という前提は忘れないで欲しい。……なんてまた、我儘で子供な私。
「他の人に目を向けて、河原先生のことが好きな気持ちを無くせというのなら、私はそこまでしなくて良いです」
「でもやっぱり相手は先生で、しかもかなり年上ですから……」
柚木先生の言葉に、怒りのような、不満のような。心の中で、何とも言えない強い感情が沸き上がるような感覚がした。
思わず椅子から立ち上がり、先生を睨みつける。
「先生とか、かなりの年上の人を好きになったら駄目なのですか? そういう決まりがあるのですか? 私は、人を好きになるのに、立場や年齢って関係ないと思います」
そう言い放って、部室から飛び出してしまった。
「あ、平澤さん!!」
「平澤……」
部室を出てすぐの廊下。
柚木先生が中から叫ぶのと同時に、私の名を呼ぶ別の声が聞こえてきた。
「か、河原先生………」
ボランティア部の部室前に立っていた、河原先生の声だ。
「なんで……」
「河原先生、どうされましたか。ボランティア部の部室に来て」
「……いや」
部屋から出てきた柚木先生は、怪訝そうな表情をしている。河原先生は少しだけ下唇を噛み、小さく言葉を継いだ。
「さっき、泣かせてしまったから」
「……っ」
その言葉に、また涙が込み上げてくる。
私は柚木先生にも河原先生にも何も言わず、走ってその場を去った。