どこの誰よりも、先生を愛してる。
「クールな見た目してるのに、どこか物憂げ」
「………」
「河原先生、悩み事ですか?」
「溝本先生……」
英語教師の溝本明日香先生。どこか影のある美人……。もとい、大人の女性。
女性の年齢を言うのはあまり宜しくないが、彼女は38歳の独身。
溝本先生の席は、俺の隣だ。
「悩み事なんて、そんな大層なことじゃない。考え事程度」
「考え事だって、立派な悩み事ですよ」
猫でも撫でるかのような声でそう呟き、椅子に座り長い髪の毛を掻き上げた。
俺よりも年下なのに、年上かと思わせるくらい余裕に満ちている。
「考え事でも、悩み事でも。どれだけ頭を使っても答えなんて出ないけどな」
ふぅ……とまた溜息が出ると同時に、何故か脳内に浮かぶ平澤の姿。それにまた、頭を悩ませる。
「……河原先生。そういう時は、スッキリさせた方が良いですよ」
「…………」
艶っぽい声色で。
そう、耳打ちした溝本先生。
これは溝本先生流、ホテルへのお誘いだ。
「………じゃあ、21時。いつもの場所」
少しだけ考えた後、俺も小さく溝本先生に耳打ちをする。
「はい、楽しみにしています」
そう言って微笑んだ溝本先生は、更なる色気に満ちていた。
今回で、4回目のお誘い。
だが別に、恋愛感情は無い。
俺と溝本先生、お互いに利害が一致しているだけ。
ただそれだけの関係。
嬉しそうな溝本先生が自分のデスクと向き合った後、何だか笑いが込み上げてきた。
自分で自分に笑えてくる。
俺は別に愛情なんて無くても、いとも簡単に女を抱くことができる人間なのだから。
俺のことを好きだと言ってくれる平澤には悪いけれど。
やっぱり俺は、どうしようもないクズだ。
(side 河原 終)