どこの誰よりも、先生を愛してる。
ギィー……と、音を立て開く扉。そこに現れたのは、河原先生だった。
「……三崎、授業が始まる。ちゃんと受けろ」
「河原、何でここが分かったんだよ」
「こんな小さな学校だぞ。行ける場所なんて限られるだろ」
河原先生は圭司の学ランの襟を引っ張り、私から引き離す。圭司は反射的に河原先生の腕を振り払い、睨み付けながら学ランを正した。
「触んな、河原。お前こそ授業があるんじゃないのか?」
「1限は空きだ。あと、最低限“先生”を付けろ」
怒りの感情が丸出しの圭司と、表情から感情が読めない河原先生。私はやっぱり何も出来なくて、どうすれば良いのか分からなくて。無言でその場に突っ立っていた。
「ほら、三崎。早く教室に戻れ。平澤はこっちで引き受ける」
「……」
「戻れ」
「……」
「三崎、戻れ。次言わせたら、評定落とすぞ」
「……クソっ。菜都、気を付けて」
圭司は柵を左手で殴り、何度もクソと叫びながら階段を降りて行った。
残された私と河原先生。
河原先生の表情からは感情が読み取れない。何を考えているのか、何も分からない。
先生は何で、圭司を帰らせたのだろう。私と2人きりになるって、分かっているはずなのに。
「……平澤」
「……」
そう、小声で私の名前を呼んだ先生。
ゆっくりと歩み寄ってきて、そっと、私の身体を抱きしめた。
「先生………?」
少し冷たい、先生の手。
どうして私は抱きしめられているのか、状況が理解できない。
「先生っ」
「……」
大好きな河原先生の気配を間近で感じて、また涙が零れそうになった時。
先生は焦るように私から離れて、一言呟いた。
「ごめん、魔が差した」
「……………」
天国から地獄に、突き落とされたかのような感覚がした。
急に離された身体は、自分の意思を無視して異常なほど震えあがる。滝のような涙が止め処なく溢れて止まらない。
「……有り得ない」
私は震える声を絞り出して、想いを言葉にした。
「先生は、私の心を弄んで楽しいですか……?」
そんな言葉を発するのが精一杯で……。
呟き終わるのと同時に、私は屋上出入口に向かって走った。
「ちがっ、平澤!!」
何が違うのだろうか。
河原先生が考えていることが、私には全く分からない。
これが年の差と立場の違いってことなのだろうか。
悲しくて、苦しくて、胸が痛くて、悔しくて、耐えられない。
衝動的に屋上を飛び出した私は、走って1階まで向かい、校舎を勢いよく飛び出した。