どこの誰よりも、先生を愛してる。
前日準備が終わり、得点係は解散となった。
解散となった係から帰宅しても良いとアナウンスがあったが、私はボランティア部の部室に来ていた。ボランティア部として、最後に草抜きをするらしい。
柚木先生が決めたことだ。
「……草抜き、ねぇ」
部室から外を眺める。
応援係と応援控えは、グラウンドでまだ練習をしていた。
「平澤さん、お待たせしました」
「柚木先生……こんにちは」
実はあれ以来、何だか柚木先生とも少し気まずい。
「草、抜きに行きましょうか」
「……はい」
なんて、気まずいと思っているのは、私だけかもしれないけれど……。
「全校生徒で草抜きをしたのに、また伸びていますね」
「根っこ残すからすぐ生えるのですよ……」
微妙に背丈を伸ばしている雑草を、根元から引き抜く。綺麗に根っこが出てくるのが快感だ。
元々は別に草抜きが好きだったわけではない。選択肢の少ない部活動から、唯一頑張れそうだと思って選んだだけなのだから。
「さすが、平澤さんです。今度、草抜きの講師でもしますか」
「先生それ、絶対に馬鹿にしてる!!」
「していませんよ。褒めているのです」
そう言いながら私の頭をポンポンと叩いた。
優しく微笑んでいる先生の表情が何だかくすぐったくて、思わず視線を逸らす。
そして、ふいに校舎内へ視線を向けると、廊下を歩いている河原先生の姿が見えた。
「……」
遠目に見ても、素敵。
そんな河原先生は溝本先生とすれ違い、生徒の前では見せない笑顔で会話をし始めた。
見たことのない笑顔に胸がざわつく。
溝本先生とは笑顔で会話するのに。私には不機嫌そうな、ムスッとした顔しか見せてくれない。
好きで好きで、どうしようも無い。
私も河原先生と会話をしたいのに。
私とも笑顔で会話をして欲しいのに。
いざ2人きりになると会話ができないし。
先生は、不機嫌そうだし。
「……」
胸がチクリと痛み、少しだけ唇を噛む。苦しくて……悔しくて、泣きそう。
「……平澤さん」
それに気付いた柚木先生は、スッと私の頭を抱きかかえて、先生の胸に埋めた。
「……ゆ、柚木先生……?」
「見なくていいです。平澤さん。そんな顔をするくらいなら、あの人を視界に入れないで下さい」
「………」
いつもの穏やかな口調は消え、力が籠っている柚木先生の言葉。
眉間に皺を寄せ、先生もまた唇を噛んだ。
「何で、河原先生なの? 僕はもう、貴女のそんな表情、見たくないんだよっ」
グラウンドからも校舎からも見えないであろう死角。
そんな木陰に隠れた先生は、抱きかかえたままの私を引き離して、そっとキスをした。
「好きです、平澤さん」
「…………」
突然の出来事に頭が回らない。
私の身体を強く抱きしめ、離さない柚木先生。
「………」
体育祭前日の放課後。
この日を境にボランティア部は、何かが変わってしまうような。そんな気がした。