どこの誰よりも、先生を愛してる。
平澤さんを落ち着かせて帰らせた後、職員室に戻ると河原先生と溝本先生の2人がいた。
僕は知っている。この2人がセフレ関係にあること。
河原先生の耳元で何かを囁いている溝本先生。2人共が微笑みながらコソコソと会話をしている。職員室で繰り広げられるその光景が妙に異常だ。
昨日平澤さんが目撃した時も、2人は微笑みながら会話をしていた。
見た感じ、河原先生に恋愛感情は無いと思う。
けれど溝本先生……。
こちらは完全に恋をしている。そんな雰囲気が、常に醸し出されていた。
「……河原先生、溝本先生」
職員室の出入口から2人の名を呼ぶと、溝本先生は飛び跳ねるように河原先生から離れた。顔を少しだけ紅く染めた溝本先生は、睨むように僕を見つめる。
「お2人とも、気を付けた方が良いですよ。誰がどう見ても、付き合っているみたいです」
その言葉に焦って動揺したのは、やはり溝本先生だ。
「つ、付き合ってないです。誤解を招くようなこと言わないで、柚木先生」
「距離感がおかしいんですよ」
一方、無言で一点を見つめたままの河原先生。その様子に少し苛立ちを覚え、つい言葉を投げ掛けてしまった。
「……河原先生、あまり適当なことしない方が良いですよ。突き放すならそうする、受け入れるならそれなりの覚悟をする。今の河原先生は、あまりにも中途半端です。そうやって特定の人を苦しめるなら、僕は貴方を許さない」
河原先生は冷静だった。
表情1つ変えずに、どんよりとした瞳をこちらに向ける。そして、呟くように口を開いた。
「……やっぱり、柚木先生」
「………」
だがしかし、河原先生はそれ以上の言葉を継がなかった。
「……」
無言で立ち尽くしている河原先生と溝本先生。
そんな2人を無視して僕は自席に戻り、散らかっている机の上を片付け始めた。
(side 柚木 終)