どこの誰よりも、先生を愛してる。
授業の間の休憩時間、移動教室、昼休み……。いつも愛理と圭司の3人で過ごしていた。
それが昔から当たり前だったのに。
あの体育祭の日から、3人で過ごす時間が完全に無くなっていた。
圭司は私1人で居ると話し掛けてくるけれど、愛理が居ると近寄りもしない。
その変化が心苦しい。だけどそれに触れてはいけない気もして、私には何もできない。
「平澤さん、大丈夫ですか?」
「……え? 何ですか」
「何ですかじゃないですよ」
放課後のボランティア部。今日は校舎裏の草抜きをしていた。
お互い無言で草と向き合っていると、ふいにそう言葉を発した柚木先生。
「元気が無さ過ぎて、心配です」
「……」
その言葉に……私は何も言えない。
俯き黙り込んだまま草抜きを継続する。
柚木先生は小さく溜息をついて、私の隣に座った。
「……平澤さん、僕に甘えてみませんか」
「え?」
「誰よりも貴女の状況を理解しています。溜め込んでいるものを吐き出せば、自ずと心は軽くなりませんかね」
「……」
目に涙が滲み始めた。
柚木先生に甘えるなんて意味不明な言葉。だけど優しいその声掛けは、単純な私の心にじわりと染み渡る。
「……私、河原先生が好きです。柚木先生の優しさには、甘えられません」
「河原先生は、傷付く未来しかないって言っていますよね。しかも、気まずそうじゃないですか。今」
「……そうです。そうですけど、それでも私はまだ、河原先生のことが好きですから」
ずっと草に目線を向けながら、呟くように言葉を発した。
「……はぁ」
隣から柚木先生の小さな溜息が聞こえてくる。自分でも頑固だと思う。泣いて悩んでいるくせに、人の話は一切聞かず、自分の思いを貫き通そうとしているのだから。
溜息の音が消え静寂がやってきた後、遠くから砂利を踏む音が聞こえてきた。