どこの誰よりも、先生を愛してる。


 水族館を一通り見学して、近くにあるカフェでランチを食べた。



 どこに行くにも握った手を離さない圭司。
 その様子に、胸が少し痛む。




「……ねぇ、菜都。実は俺、陸上部を辞めたんだ」
「え!?」



 カフェを出て、海辺にあるお散歩公園に来た。歩きながら海を眺められるこの公園を、圭司とゆっくりと歩く。

 そんな時に圭司がふと呟いた一言。それに私は酷く驚いた。



「辞めたって、何で……」
「……愛理に告白されて気まずくなった。これが、全て」
「…………」
「幼馴染とはいえ、男女の友情って成立しないんだなって思ったよ」
「……」



 私の手を握っている圭司の手に力が入る。そう呟く圭司の瞳は、少し寂しそうだった。



「菜都も気付いてたでしょ。朝も俺居ないし、俺だけ別行動だし」
「う、薄々……」


 やっぱり、聞いていたとは言えない。愛理がキスしていたところまで見ていたとも、尚更言えなくて少し挙動不審になる。


「愛理とは、元の関係に戻れないかも」
「……」


 正常に回っていたはずの歯車も、何か1つでも違う動きをすると、一瞬で全てが止まる。

 友情とは、なんて儚く……脆いのか……。


「ねぇ、菜都。菜都は、河原のことが好きかもしれないけどさ。俺は、ずっと前から菜都のことが好きなんだ。俺は今この瞬間も、河原のことが好きな菜都も含めて……菜都のことが好き」
「…………」


 突然の告白に、思わず立ち止まってしまった。

 手を繋いだままの圭司も一緒に立ち止まり、優しい瞳を私に向けてくる。
 泣き笑いのようなその表情に、より胸が痛んだ。


「菜都……。そんな顔するな。河原のことが好きなの、理解しているからさ。別に無理やりどうにかしようとか思っていないし。これからも菜都とは仲良くしていきたいんだ」
「……」


 圭司はまた、空いた手で私の頭を優しく撫でる。優し過ぎる手付きに、涙が出そう。


「菜都、今日は誘いに応えてくれてありがとう。また一緒に、出掛けような」
「……」


 胸が苦しい。
 涙が零れそうになるのを、必死に唇を噛んで堪える。



 圭司の言葉に対して、小さく頷くのが精一杯だった……。




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