どこの誰よりも、先生を愛してる。


 教室を飛び出してそのままボランティア部の部室に向かった。

 部室には既に柚木先生が来ており、私の顔を見て物凄く驚いた顔をする。


「なっ、平澤さん!?」
「柚木先生……すみません、遅くなりました」
「いや、そんなことどうでも良いです!」


 驚きが隠せない柚木先生は私から鞄を取り上げ、そっと椅子に座らせる。


「え、どうしたのですか!?」
「何もありません。……今日はどこの草を抜きますか」
「そんな顔の人には草抜きさせませんけど!?」


 溢れる涙を拭いもせず、流しっぱなしの顔。
 先生はポケットからハンカチを取り出し、優しく私の顔を拭いてくれた。


「また、河原先生?」
「……」


 その言葉に、小さく頷く。
 柚木先生はいつものように、溜息をついた。


「……そろそろ僕、河原先生に手を出してしまいそうです」


 そう呟きながら柚木先生は私の頭を撫でる。眉間に皺を寄せて、物凄く険しい表情をしていた。


「……話、聞きます」
「……」


 また小さく頷いて。
 先生の目を見ながら言葉を発する。


「……柚木先生。私、分からないんです。河原先生に気にかけて貰えて嬉しいのに、それが『担任として』だと言うことを受け入れられなくて。気にかけて貰えるだけマシなのに。その気遣いが仕事の延長だと思うと、辛くて、苦しくて、悲しいです」
「平澤さん……」


 今度は困った顔した柚木先生。
 先生は頭を撫でてくれていた手を止め、今度は私の体を抱きしめた。

 温かい先生の身体に、また涙が零れる。


「だから、河原先生は駄目だと言っているのです」
「でも私は、河原先生が良い」
「……今、貴女を抱きしめているのは河原先生じゃない。僕は、貴女を泣かせない」
「ごめんなさい、柚木先生。それでも、河原先生が良いです……」
「……」


 柚木先生は震えながら、抱きしめる腕に力を加える。不意に見たその顔には、一筋の涙が零れていた。


「……柚木先生」
「僕はもう、河原先生で傷付き涙を流すところを見たくないんだよ……!!」


 柚木先生の涙で、私の頬も少しだけ濡れる。そんな先生の様子に、1つの疑問が浮かんだ。


「……柚木先生は、どうしてそんなに私のことを気に掛けるのですか。全然、意味が分かりません」


 控えめに小声でそう問うと、柚木先生の目からは更に涙が零れる。


「っ……好きな人が、他の男を想って泣いていたら辛いでしょう」
「………」
「河原先生を想って泣いて傷付いている貴女の姿に、僕は我慢できません……」




 聞かなければ、良かったかもしれない。




 体も声も震わし、強く私を抱きしめる先生の腕。

 先生のその様子に、思わず意識が遠退きそうになった……。





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