どこの誰よりも、先生を愛してる。
「……あっ」
部活終わりの帰り道。
家に帰ろうと校舎を出た私は、学校の敷地と道路の境界でタバコを吸っている河原先生を見つけた。
久しぶりに見た。河原先生がタバコを吸っている姿。
あまりに私と遭遇するからか、ボランティア部が終わる時間帯にタバコを吸っている河原先生と遭遇することが無くなっていた。
今日は夏休みだから、油断したのだろう。
「……」
思わずその場に立ち止まり悩む。
どうしよう。
スルーするか、話しかけるか。
けど、話しかけるって……何を話せば良いのか。
大好きな人なのに、何を話せば良いのか分からない。
「……」
しばらく考えた私は、別の道から帰ろうと決める。
そうしようと身体をUターンさせ引き返そうとすると、離れた場所から私を呼ぶ声が聞こえて来た。
「平澤」
「……」
電子タバコをしまいながら、ゆっくりと私に向かって歩いてくる河原先生。
先生はピタッと私の背後にくっついて、耳元で囁いた。
「今まで通り話しかけて来いって言ったろ……」
「……」
心拍数が一気に上がる。
頭で感情を理解する前に、涙が零れた。
「何でお前が俺を避けてんだよ……」
「……だ、だって」
「何だ」
「だって、河原先生……私に冷たいし、話しかけられるのが嫌そうだし……」
「それは誤解だろ」
「誤解じゃない、事実です」
そこまで言って体の向きを変え、河原先生と向き合った。先生は、いつも私に見せるムスッとした表情ではなく、何だか少し悲しそうな表情をしている。
「先生。私……どこの誰よりも、先生のこと愛しています」
「………気持ちには、応えられない」
「知っています」
また向きを変え、先生に背を向ける。
そして、何も言わずに走って河原先生の元から逃げた。
「……」
帰り道、歩きながら思う。
私、強くなった。
自分の想いをちゃんと伝えられるようになった。
「……」
心臓がバクバクと鳴っていてうるさい。
正直、河原先生の中で何の心変わりがあったのかが、私には全く分からない。
けれど、前みたいに話しかけても良いって。そう言って貰えた事実が、やっぱり嬉しい単純な自分。
潤んだ目を右手で軽く拭って、少し口角を上げたまま学校を後にした。