どこの誰よりも、先生を愛してる。
掃除道具を持って、正面玄関前に向かった。
背丈を伸ばし始めている雑草たち。これらを全部抜いていく。
スーツ姿で軍手をはめている柚木先生。固そうな草を、次々と引き抜いていた。
「平澤さん、制服のままだと汚れますよ」
「そういう先生こそ、スーツで草抜きはおかしいです」
「僕は良いのです。汚れるほどやりませんから」
「そんな宣言されましても……」
草を抜きながらグラウンドに目を向ける。
トラックを走っている陸上部。
その中に、愛理と圭司もいた。
2人は小学校の頃から地域のスポーツクラブで陸上をしていた。その後、中学でも高校でも陸上部に入り活動をしている。
大会に出れば必ず入賞して帰る2人。
実は2人とも、かなりの実力者だ。
「渡津さんと三崎くん。次も大会に出るんですよね」
「そうみたいです。今が頑張り時だと気合入れていました」
「……凄いですね。こんなに小さい学校の名前を県大会や地方大会で轟かすなんて」
「本当、凄いです」
それに比べ“今の”私には、なんの取柄もない。
勉強は嫌い。運動は苦手。
秀でていることなんて何もなくて、まぁ……しいていうなら、草を根っこから抜くのが上手?
そんな程度。
「そういえば平澤さん。この前、河原先生に告白していたじゃないですか?」
「え?」
「あれから気まずさとか無いですか?」
「………」
柚木先生のその言葉に、勢いよく立ち上がった。一気に顔が熱くなる感覚がして、心臓も騒がしく音を立て始める。
な、何で、柚木先生が知っているのか。
口をパクパクさせ、呆然と柚木先生を見つめると、吹き出すように笑い始めた。
「何で知っているのか、と思ったのでしたら“甘い”とだけ言っておきましょうかね」
「……」
「校舎が1棟しかない小さな学校ですよ。どこで告白しても目につきます。廊下の窓が開いていたら尚更。声が良く届きますし」
全然気が付かなかったし、完全に周りのことを考えていなかった。まさか、柚木先生に見られていたなんて……。
「どこで誰が見ているか分かりませんから。気をつけた方が良いです」
「そうですね……」
溢れるように出てくる汗を制服の袖で拭って、草抜きを続行する。恥ずかしすぎて、穴に埋まりたい。それが率直な今の感想。
だけど……。逆に柚木先生で良かったと諦めるしかない。もしこれが他の人だったら、何を言われることか。
「……」
柚木先生は、少しだけ口角を上げて私の顔を眺めていた。