どこの誰よりも、先生を愛してる。
「菜都、起きて!」
「え!?」
呼ばれて飛び起きると、お母さんが部屋の扉のところに立っていた。
「……?」
起きて気付いた。
涙が零れている。
何故か胸は懐かしさでいっぱいになっていた。
しかし、寝ている間も泣いていたなんて。重症な私。
目元をタオルで拭いながら身体を起こすと、お母さんは焦ったように声を上げる。
「菜都、先生が見えてるの。歩ける?」
「先生……?」
先生が来てるって、どういうこと。
疑問を頭に浮かべたまま首を傾げて気付く。
そう言えば、寝る前と比べて体の楽さが全然違う。
直感で熱は下がっているような気がした。
「ほら、急いで」
乱れた髪を手櫛で直し、お母さんに連れられ玄関に向かう。
「先生すみません、お待たせしました」
「いえ、突然押しかけてすみません……。……平澤、こんばんは」
「……えっ、河原……先生……」
そこに立っていたのは、まさかの河原先生だった。
想定外の人物に益々心拍数が上がる。胸が苦しくて、張り裂けそうだ。
「熱は、大丈夫か?」
「……大丈夫です」
そう答えると、少しホッとしたような表情を浮かべて更に言葉を継ぐ。
「これ、今日配布のプリントだ」
「あ……ありがとうございます」
先生からプリントを2枚受け取った。その上に、付箋が1枚貼られている。
【学校に来れた日の放課後、教室で話したい】
「…………」
「……じゃあ、届けに来ただけだから帰るな。すみません、お邪魔しました」
そう言ってお母さんに頭を下げて、先生は外に出て行った。
「……」
その後を追って、私も外に出る。
すると先生は足を止めて、その場で立ち尽くした。
「…………河原先生」
「平澤、ごめんな」
「え?」
「俺が中途半端なばかりに、苦しめて」
「……」
私に背を向けたまま、そう言った先生。
どんな表情をしているのか分からないけれど、普段の先生からは想像もできないくらい小さくてか細い声に、心拍数が更に上がる……。
「お前の気持ちに応えられないって言っているくせに……。お前と柚木先生がキスしているところを見たら、凄く嫌な気持ちになった」
「……」
「付箋にも書いたけど、学校に来れた日の放課後、少し話そう。伝えておきたいことがある」
「………」
言葉が出てこない。
黙って俯いていると、先生はそっと振り返って私の頭に触れた。
「……ゆっくり休んでくれ。また学校で会おう」
「………」
触れられた頭が熱い……。
河原先生はゆっくりと口角を上げて、車の方に向かって歩いて行った。