どこの誰よりも、先生を愛してる。
生徒机を2つ並べて、柚木先生と初めて共にする昼食。
先生の昼食はコンビニのお弁当だった。
「平澤さんは、お母さんが作って下さるお弁当ですか?」
「そうです」
働いているのに、必ず毎日作ってくれる。
嫌いな物は絶対に入っていない、お母さんの愛が溢れたお弁当だ。
「僕の親も、高校時代は欠かさず作ってくれていました。当時は学食に憧れて、お弁当なんていらないって思っていたんですけどね。大学行って一人暮らしを始めて、そこでやっと有難みを感じました。栄養とか量とか……色々考えてくれていたのに。“親の心子知らず” です」
そう言って先生はコンビニのお弁当を頬張る。
「教師になってからはずっと、コンビニにお世話になっています」
柚木先生……ニコニコと、何だか嬉しそうだ。
「……しかし、会話の中で”親の心子知らず”って言葉が出てくるなんて。凄いですね」
「何を言っていますか平澤さん。僕、国語教師ですよ」
「………」
確かに、そうだった。
ボランティア部の顧問ってだけではないんだ。
「柚木先生が国語教師ってこと、忘れていました」
「どういうことですか」
「私と一緒に草を抜く人って感じです」
「え、何ですかそれ!?」
「国語がオマケですよね」
「いや、草抜きがオマケです!!」
お弁当を食べながら、柚木先生との会話が弾む。
最初、柚木先生も一緒だなんて気まずいし嫌だなって思った。
けれど実際一緒に過ごすと全然そんなこと無くて、普通に楽しくて、久しぶりに心から笑えた気がした。
柚木先生のこと、好きになれたら良いのに。
そう思っても、やっぱり私は……河原先生のことが好きで。
河原先生と溝本先生が付き合っていても。
私が河原先生のことを好きという事実は、何1つ変わらない……。
悔しいな。
「……そういえば、今日の放課後、河原先生に呼ばれているので、先にそちらに行きますね」
「今度は、行くのですか」
「はい。……ちゃんと、話してきます」
少し悲しそうな表情の柚木先生。何か無言で考えた後、言葉を発した。
「分かりました。……また、もし何かされたら言って下さいね」
「………」
小さく頷くと、頭を撫でられた。
柚木先生と色んな話題の会話をして、予鈴が鳴るギリギリまで楽しい時間を過ごした。
昼休みは、思った以上にあっという間に終わる。
「……柚木先生、明日からも来ても良いですか?」
「勿論です。鍵を開けて待っていますね」
そう言って、柚木先生は優しい笑顔を浮かべていた……。