どこの誰よりも、先生を愛してる。



「……すまん、1つ大切なことを忘れていたんだ」


 帰りのショートホームルーム。
 珍しく焦っているような表情の河原先生は、眉間に皺を寄せてそう言った。


「実は、先週のロングホームルームで文化祭実行委員を1人決めなくてはいけなかったんだが……。そのことを俺がすっかり忘れていた」
「……」
「それでな、問題はここからで……。実はこの後すぐ、文化祭実行委員会の第1回会議があるんだ」
「はぁ!?」


 教室が一気にざわつき始めた。
 河原先生は難しそうな表情をしながら、少しズレた眼鏡を直す。


 想像を遥かに上回る河原先生の発言に、思わず頭を抱える。
 他の先生たちもおかしい。何で2年だけ決まっていないことに誰も気が付かないのだろうか。

 なんて思いながら、いつもと違う様子の河原先生が面白くてつい頬が緩む。
 頬杖をついて口角を上げていると、先生から耳を疑うような言葉が聞こえてきた。


「で、もうゆっくりと決めている時間が無いから。俺が1人指名することにした。……ということで、平澤」
「え?」
「楽しそうに微笑んでいるところ悪いが、お前に文化祭実行委員を頼む」
「はっ!?」


 勢いよく椅子から立ち上がり、机にダンッと手をつく。

 圭司が不安そうに私を見つめている中、愛理を除く他の人たちは、ほっとした表情で私に向かって拍手をしていた。


「ちょっと待って下さい先生! 私、部活があります!!」
「大丈夫だ。文化祭実行委員もボランティアだと思ってくれ。そう思ったら部活と同じだろ」
「違いますけど!?」
「じゃあ今日は終わりだ。号令」
「無視しないで!!!」



 全然悪びれる様子の無い河原先生。


 突然の指名に頭が追いつかないが、それ以上に何故私を指名したのか。

 そんなことがつい気になってしまった……。



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