どこの誰よりも、先生を愛してる。

再集合



 多目的教室に行くと、既に1年と3年が来ていた。


「河原先生、こんちは」
「うっす」
「………マジか」


 見たことのある2人に、河原先生は脱力する。


「またこのメンバー?」


 そう、この2人。
 体育祭で一緒に得点係をした大川先輩と佐川くんの“川コンビ”だった。


「……何でこうなるんだ」
「面倒事は押し付けられるタイプっす」
「自分も。得点係の時も1番面倒な係でしたから。押し付けられました」
「というか、河原先生が嫌って人多いっす」
「そうですね。決め事する時、河原先生はどの係かを担任から聞き出すところから始まります」
「…………………」


 衝撃的な事実が発覚。どうやら河原先生は、他の学年の生徒から嫌われているようだ。
 意外な2人の言葉に、思わず私も目が点になってしまう。


「……」


 呆然と一点を見つめながら黙り込んでしまった河原先生。教卓に書類を置いて何かを考えていた。

 そして、少しだけ頬を膨らませながら……ゆっくりと口を開く。


「よし、決めた。お前ら以外、みんな数学の評定を1にしてやる」
「お……大人げないっすね」


 知らなかった事実に驚きつつ、拗ねてしまった河原先生の様子が可愛くて思わず頬が緩む。私が1人でニヤニヤしていると、川コンビは顔を見合わせて笑い、言葉を発した。


「俺は先生のこと好きっすよ」
「自分も。先生好きです」

 
 優しい川コンビ。拗ねている先生を慰めているのだろうか。そんな言葉に何故か私の頬が、より一層にやけてしまう。


「何だお前ら……。評定を下げはするけど、上げはせんぞ」
「先生……好き♡」
「気持ち悪いんだよ大川。数学補習させるぞ」
「絶対に嫌っす」


 河原先生と大川先輩のやり取りが面白い。既に一緒に活動を行っているからか、雰囲気は凄く良い。
 そんな3人の様子を微笑みながら見学をしていると、先生は空き席を指さして「そこ座りな」と私に言った。

 指示された場所は大川先輩の隣。
 そこに座って鞄を置くと、先輩がこちらを向いて話しかけてきた。


「平澤さんも押し付けられるタイプ?」
「……」

 首を傾げて河原先生に視線を送ると、小さく2回頷いた。指名されたことは隠し、肯定しろってことなのだろうか。なんて、そう思うも意地悪な私。

「河原先生が私にやって欲しいって、直々に指名したんです」
「え、指名!?」

 その言葉を聞き、教壇を降りてこちらに向かってくる河原先生。そして私の頭をチョップして、また戻って行った。


「いや、実は2年の実行委員な。ついさっき決めたんだ。俺が失念していたのが原因だが。もう決めている時間なんてなくて、体育祭でも平澤と一緒だったし。それで指名したってところだ」
「……河原先生も、抜けているところがあるんすね」
「先生、可愛いところあるじゃないですか…」

 何だかニヤニヤと楽しそうな川コンビ。河原先生は眉間に皺を寄せて頭を掻いた。


「うるせぇな……。ほら、さっさと始めるぞ」


 恥ずかしさなのか、少しだけ頬が赤くなった先生は、雑にプリントを配布した。


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