どこの誰よりも、先生を愛してる。
恩人
どんな装飾物をどこに飾るか。
それを考えるのは、やっぱり1人よりも誰かが居た方が捗るわけで。
柚木先生がいるだけで楽しくて、アイデアも沢山浮かぶ。
川コンビは部活に行かなければいけないということで、早目に抜けて部活に行った。
その為、多目的教室には私と河原先生と柚木先生の3人が残っている。
「平澤さんの好きな雑草を描いて切り抜いてみてはいかがですか」
「えっ、いつ私が雑草好きだって言いました!?」
「違うんですか? だからボランティア部にいるのかと思っていましたが」
「違います~。入りたい部活に入れなかったからです~」
紙に出てきた案を書きながら、淡々とそう告げる。
入りたい部活に入れなかったと言うと、柚木先生は驚いた表情をして私の顔を見た。
「そうだったんですか? 知らなかったです」
「誰にも言っていませんから。愛理と圭司以外、誰も知りません」
「……何部か、聞いても良いですか?」
「良いですよ。もう吹っ切れたので」
そう言うと、教卓で何か作業をしていた河原先生も手を止めてこちらを向いた。
「私、陸上部のマネージャーをやりたかったんです。でも、いらないって言われて諦めました」
「陸上部……?」
「柚木先生、私のこと運動が苦手って思っていると思いますけど、こう見えて中学時代は陸上部で、愛理や圭司と一緒に大会出ていたんですよ」
「え。うそ」
更に驚いたような表情の柚木先生。話を一緒に聞いている河原先生の表情も驚いていた。
「え、じゃあ何で……陸上部のマネージャーをやろうとしたのですか?」
「……中学の時、風が強いのに自転車に乗って下校していたら、溝に落ちて右足を骨折したんです。足が治ってからも本気で走ることができなくなってしまって……。渋々、中学では選手からマネージャーに切り替えました。それで高校でも同じようにマネージャーができたらと思っていたのです……。けどまぁ、今はボランティア部で良かったと思っているので、別に良いですけど!」
そう言って微笑むと、柚木先生は物凄く悲しそうな表情をした。
河原先生は変わらず驚いたまま固まっている。
「……ひ、平澤さん、ごめんなさい。運動が苦手なこと、知らずに揶揄したことがあったかもしれません…」
「別に良いですよ。今の私が運動苦手なのは事実ですから」
目を潤ませて俯く柚木先生。河原先生は唇を少し噛んで、右手で頭を抑えていた。
「……」
静まり返った、多目的教室。
もしかして、ちょっと重かったかもしれない。そう心配になり、何か言おうと口を開こうとすると、先に河原先生が声を上げた。
「……なぁ、平澤。もしかしてお前、あの時のか」
「……」
「風が強いのに自転車に乗っていた中学生って……」
「………」
河原先生の言葉に、つい涙が出そうになった。