どこの誰よりも、先生を愛してる。
大人
「愛理。私、大人になりたい!!」
「えっ?」
朝、顔合わせてからの第一声。
そんな私の言葉に愛理は目を丸くし、圭司はお腹を抱えて笑い始めた。
「大人になりたいって、そう簡単になれるかよ!」
「分かんない。けど、河原先生に意識されるような人になりたいの!! 子供扱いされるんじゃなくて!!」
昨日帰ってから、好きな人に意識してもらう方法を調べた。
押して引くとか。
相手の話を聞くとか。
自分のことを話すとか。
秘密を共有するとか。
もうね、違う。違うの。私が求めているのはそういうことでは無いのよ!
河原先生の場合、押して引いたらそれで終わりだよ。
そんなこと思いながらネットサーフィンをし続け、私が辿り着いた、1つの答え。
「大人に……なる」
これしかない。超短絡的な私は、そう思ったのだった。絶対他にも何かあったはず。しかし私には、そんなことを考える余裕も無い。
「大人ってさ、なろうと思ってなれるものではないよ」
「まぁなぁ〜。色んな経験をして、ゆっくりと大人になっていくんだと思うけどね」
「……愛理も圭司も、その発言が既に大人」
2人の言葉を聞き、思わず頬を膨らませてしまった。もしかして、この中で子供なのは私だけなのでは。
「大体、河原先生のレベルまで大人になろうと思うことが間違ってるよ。17歳が41歳に片想いするなんて有り得ないんだから」
「そうそう。どれだけ菜都が大人になっても、河原にとっては子供に変わりないと思うけどな」
「う〜〜………」
分かっている。そんなこと、分かっているけれど。正論で指摘された私の中にいる、“幼い私”がつい主張してしまう。
「愛理と圭司の言うことは間違ってない。私だって、本当にそう思う。けどしょうがないじゃん。河原先生のことが好きなんだから……」
こういうところが子供なんだ。そう思い溜息が零れる。自分のことなのに。
私の言葉を聞き、愛理と圭司の2人は目を合わせて溜息をついていた。
どうしようもできない。
好きという感情。
河原先生に対する好きという感情が溢れて苦しい。
「……まぁでも。菜都の片想いを応援はできないけど。菜都の心を支えることはできるから。限界が来る前に、私に相談すること」
「そうだな、友達として出来るのは菜都を支えることだけ。……河原と上手くいくようにとは願ってないからな!! 俺らは心配なんだから!!」
そう言って愛理と圭司は私の肩に腕を回した。
大切な友達に応援して貰えない片想い。そこにまた傷付くが、こればかりは仕方ない……。
「ありがとう。愛理、圭司」
込み上げて来た涙で潤む瞳を拭いながら、3人で校門をくぐった。