どこの誰よりも、先生を愛してる。
「河原先生……」
「…………」
振り向かなくても分かる、その声の主。
「……溝本先生」
「少し、お話しませんか」
「だから……。もう解消させてくれと言っただろう。俺は話すことはない」
「……さっき、平澤さんとお話をしたんです。……聞きたくないですか?」
「は?」
「ほら、こちらへ」
溝本先生に誘導され、宿直室に入った。
思い返される、あの夏の日……。
「……で、平澤と何を話したって言うんだ」
「邪魔をするなって、お伝えしました。平澤さんが河原先生に近付いたから、私は貴方に関係を解消されたのです」
そう言う溝本先生の目は血走っていた。少し不気味で、思わず視線を逸らす。
「……近付いたって言うけど、その様子いつ見たんだ?」
「見たというか、体育祭の係や文化祭実行委員です。両方とも河原先生が担当だなんて、狙っているに違いありません。女子1人ですし」
「それは言い掛かりだろ。……関係を解消したことに平澤は関係無い。俺がずっと前から考えていたことだ」
そう言い放つと、溝本先生の目から涙が零れた。
俺は数日前、溝本先生に関係を解消しようと告げた。
あの時は素直に受け入れてくれたのだが。時間が経過した今、それが平澤への怒りとなって現れているのだろう。
その矛先が何故平澤なのかは、分からないが。
「私、河原先生のことが好きです。抱いてもらえて嬉しかったのに……!! どんな関係でも、河原先生と繋がっていたかった……!」
「勘弁してくれよ。最初はお互い性欲処理から始まっただろ。恋愛感情を持ち込まれると困るんだよ。俺にはそんなつもりは無い」
「酷いです……。こんなにも、河原先生のことが好きなのに……!!!」
「本当に勘弁してくれ」
溝本先生に背を向けて宿直室から出ようとすると、背後から抱きしめられた。
その瞬間、同じように背後から抱きついていた平澤のことが頭を過ぎり、溝本先生に対する嫌悪感を覚える。
「やめろ」
「嫌です」
「離せ」
「離しません」
全然言うことを聞いてくれない。
「……」
無理やり溝本先生の腕を離し、その場から移動した。
泣きそうな表情の彼女を無視して、一言。
「本当に平澤は関係無い。俺たちの関係はおしまいだ」
「……」
そう告げて、今度こそ宿直室を後にした。
俺の対応は、溝本先生に対して酷だったかもしれない。
けれどこれが、俺なりの“けじめ”だから───……。
(side 河原 終)