どこの誰よりも、先生を愛してる。
「……」
睨むような目付きで黙っていた柚木先生。
大きな溜息をついて、その目を河原先生に向けた。
「平澤さんのことは僕にお任せください。河原先生はお気になさらず」
「でも、俺は担任だから……」
「『担任だから』と思ってここにいるなら尚更です」
そう言って柚木先生は椅子から立ち上がり、背後から私を抱きしめた。
「ゆ、柚木先生……」
「良いから大人しくしといて下さい」
耳元でそう囁き、抱きしめる腕に力を入れる。
そんな様子を見ていた河原先生は眉間に皺を寄せて、柚木先生を睨み付けた。
「お前本当に、どういうつもりだよ……」
「河原先生。本当に『担任だから』気になるのですか?」
「…………何が言いたいんだ」
「別に。僕から言えるのはそこまでです」
そう言って柚木先生は私の頬と先生の頬をくっつけた。思わず体が逃げようとしたが、抱きしめられている柚木先生の腕のせいで身動きが取れない。
「平澤さん、好きです」
「わ……私は……」
「良いですよ。言わなくて」
河原先生は軽く舌打ちをして椅子から立ち上がり、ゆっくりと扉の方に向かった。
「……平澤、無理だけはして欲しくない。何かあれば俺も頼ってくれ」
それだけを言い残して部室から出て行った。
「……」
自然と溢れ出る涙。
その涙は柚木先生の頬も濡らす。
「……というか柚木先生、本当にどういうつもりですか。河原先生を試すような言葉に態度……」
抱きしめたまま離れない柚木先生は微笑み、頬はくっつけたまま口を開いた。
「……いえ、彼の煮え切らない態度がムカつきまして」
「…………」
「少し、試しただけです」
「……」
柚木先生の言っている意味がよく分からない。
返す言葉が見つからず黙っていると、柚木先生はそっと笑って呟いた。
「………大人しく、僕を選んでくれたら良いのに」
「…………」
その言葉に、私は何も言えない───……。
今日はそのまま部室に籠り、草抜きはしなかった。
ずっと私にくっついたままの柚木先生。
優しくて温かい先生の体温を全身で感じ、そっと流れ落ちる涙が止まらなかった。