どこの誰よりも、先生を愛してる。
「え……何、付き合い始めたの?」
「愛理……。別に、付き合ってないよ」
「じゃあ何、その手」
「……」
指摘され、パッと手を離す。不機嫌そうに私たちを見つめる愛理。圭司は大きく溜息をつきながら、愛理に視線を向けた。
「……話すの久しぶりじゃん。第一声、それ?」
「久しぶりって……。何でそんなに他所事なの? 圭司が私を無視するからじゃない!」
「無視はしてないよ。気まずくて話し掛けられなかっただけ。愛理も俺に話し掛けて来なかったじゃないか」
「だって……話し掛けても無視するから……」
「してねぇって」
「………」
泣きそうな愛理の表情に、思わず目を逸らしてしまう。
しかし私……、愛理から消えてくれって言われている手前、話す言葉が見つからない。
ここは黙って、圭司と愛理の会話を聞き、口は出さないことに決めた。
「圭司、好きなんだって……」
「俺は菜都が好き」
「圭司………っ」
名前を呼びながら小さく俯いた愛理は、グッと力を込めて、私の方を向いた。
そして睨むような目付きで大きく叫ぶ。
「菜都、邪魔だから私の視界から消えてって言ったよね。何なのあんた。河原先生のことが好きって言いながら、何で圭司と手を繋いでるの? 河原先生に応えてもらえないから誰でも良いみたいな? あ、そう言えば。この前は柚木先生に家まで送って貰っていたよね。それもおかしくない? ……相手が男なら誰でも受け入れるんでしょ? 誰でも良いんでしょ? そういうことなんだよね、菜都!?」
「………」
言葉が……出てこなかった。
身体が震え、自然と零れる涙。愛理がとても怖く感じた。
「……愛理」
愛理を呼んだのは、圭司だった。
低く、冷たい圭司の声。
圭司は私を背後から抱きしめて、愛理の方を向いた。
「見損なった。お前、幼馴染にそこまで言うかよ」
「……え」
「愛理は、そういうことを言う人間だったんだな」
「いや、待って圭司……ちが……」
「……因みに手はね、俺が無理やり繋いだんだ。菜都は嫌がって拒否したよ。それだけ言っておく。……行こ、菜都。こいつなんて放っておけ」
「け……圭司っ!!!」
叫ぶ愛理の声を無視して、私と圭司は足早にその場から去った。
途中聞こえた、愛理が地面に座り込む音。
だけど私たちは、それすらも聞こえなかったフリをして、先を急いだ───……。