幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

1 幼馴染との同棲

「あーーっ、またダメだったーー!」

 まだ肌寒い日の続く三月。
 私は面接の帰り道、幼馴染が運転する車の中で愚痴を漏らす。
 
「まあまあ、まだ十社くらいだろ? 次があるって」
 
 運転しながら慰めてくれるのは、穂鷹裕貴(ほだかゆうき)
 二歳年上だけど、実家が近所で小学生の頃からの付き合いだ。
 
 不況のあおり働いていた会社が倒産し、失業保険をもらいながら再就職に向けていくつか面接を受けた。
 結果は……全滅だ。
 いつもはお祈りメールをもらうのだけど、今日は面接に行って一通り話した後、その場で断られた。
 意気消沈で歩いていたところ、偶然裕貴の車が通りかかって乗せてもらったのだった。
 
「やっぱり資格がないのがダメなのかな……。私なんて何の取り柄もないし、パソコンくらいしか使えないし」
 
 裕貴はまだ(・・)十社だと言うが、もう自信がなくなってきた。
 
「こーら。出た、しのぶの『私なんて』」
 
 横目でちらりと私を見たかと思うと、コツンと頭を小突かれる。

「おまえのいいところは、めげないところだろ。頑張れよ」
 
 赤信号で止まると、頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でてきた。

「も、もぉーっ! 今朝頑張って髪まとめたのに!」

 と言いつつも、私は屈託なく笑う裕貴に対して、本気で怒れないのだった。
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