幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 お見舞いも済み、息子さんと一緒に病室を出る形になってしまった。
 今は午前11時過ぎ。会社に一旦戻って、洗濯は帰ってからやればいいのだろうか?
 それとも、これも仕事の一環としてコインランドリーなどで早くやるべきだろうか?
 そう考えていると、息子さんから声を掛けられた。
 
「真宮さん」
「はい。えっと……」

 安浦さん……でいいのだろうか?
 そういえば、息子さんの名前をまだ聞いていなかった。

「あ、自己紹介がまだでしたね。僕は、安浦(やすうら)桐人(きりと)です」
 
 そう言って、名刺を差し出してきた。
『株式会社マーベラス・メイクベリー 営業部部長 安浦桐人』と書かれていた。
 マーベラス・メイクベリー!?
 大手の玩具メーカーで、穂鷹出版から出ている書籍のキャラクターグッズなども手掛けている企業だ。
「マクベリ」の愛称で広く知られている。

「こ、これは、お世話になっております……!!」
「そんな畏まらなくても大丈夫です。お世話になるのはこちらの方ですから」

 安浦さんは、整った顔で上品に笑った。
 これがマクベリの営業スマイル……。
 きっと世の中の女性の大半は、この笑顔にうっとりするに違いない。
 
「そうそう、先ほど言いかけたことなんですが、父は柔軟剤にこだわっていましてね。困ったことに、その辺りの店では売っていない物なんです。なので……」
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