幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 数十分後、私は安浦家に来ていた。
 大きなお屋敷……。さすが大御所作家。
 モコモコのスリッパを履いて、私は安浦さんに案内されるがままついて行く。
 到着した場所は、安浦家の洗濯室(ランドリールーム)
 
「すみません、いつも家政婦さんにお願いしっぱなしで……。洗濯室はここなのですが、洗剤は……あ、あったあった」

 安浦さんは、そう言いながら棚から洗濯用洗剤と、柔軟剤を出してくる。
 それから、洗濯ネットや洗濯バサミ、ハンガーの場所も教えてくれた。
 とてもスッキリと整理整頓されている。
 きっと、家政婦の杉田さんという方がきちんとしているのだろう。
 
「僕が週末にまとめてできればいいんですけど、何せ偏屈者の父ですから……。申し訳ありませんが、毎日お願いします」
「はい。じゃあ、安浦さんのも一緒にやりますよ」
「えっ? いや、さすがに僕のは……」

 安浦さんは、驚いて手を振った。
 ちょっと差し出がましかっただろうか?
 
「でも、一人分なんて水道代も電気代ももったいないです! 遠慮しないでください」
「……わかりました。じゃあ、お言葉に甘えます。それと……僕のことは、桐人と呼んでください。父と同じ苗字呼びではややこしいでしょう?」
「はい。じゃあ、桐人さんで」

 裕貴以外の男性を名前で呼ぶなんて、初めてだった。
< 12 / 51 >

この作品をシェア

pagetop