幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 出社してからは、社長室のパソコンで裕貴……社長のスケジュールチェック。
 今日は午前中に会議、午後から来客、夕方は営業と一緒に外回り、そのまま直帰……と。
 裕貴のスケジュール管理がずさんだから、ひとつひとつ付箋に書いて、それを本人に手帳に貼ってもらう。終わったら剥がせばいい。
 まったく、自分で手帳に書き込めばいいのに、と思うけど、それができないから私を秘書として雇ったのよね。
 
 こんなことで社長が務まるのかしら、と最初は思った。
 だけど、社員への労いはちゃんとあって人望も厚い。それに、編集者時代は安浦先生に気に入られていたらしい。だから裕貴の秘書である私も、信用してもらえたのだ。
 
「この来客は、私も同席した方がいいですか?」
「いや、それはいい。おまえは安浦先生のお世話に専念して。あの方は、我が社にとって重要な作家先生だからな」
「わかりました。では、そうします」
 
 早速、外出しようと席を立つと、スッと裕貴が目の前に立った。

「……しのぶ。二人きりの時は、別に敬語じゃなくてもいいんだぞ?」

 耳元で囁くように、甘い声をかけてきた。
 急にどうしたのかしら?
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