幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「桐人さん!? 名前で呼んでるのか!?」

 これは……嫉妬しているのだろうか?
 裕貴の態度にイライラする。けれど、ここで感情的になったらだめ。
 落ち着いて答えなくちゃ。
 
「もう……。安浦先生と同じ苗字で呼んでたら、ややこしいでしょ? だからよ」

 裕貴が黙ったので、やっとわかってくれたかと安心した、その時……。
 
「……消せ」

 いつになく、低くくぐもった声で言われた。
 
「は?」
「スマホの連絡先! 交換してるんだろ? その桐人さんとやらのやつは、消せ!」

 裕貴はテーブルを叩いて、スマホを出せと言わんばかりに手を差し出してきた。
 酔っているからだろうか?
 まさかこんなに嫉妬されるとは思っていなかった。
 
「裕貴、落ち着いて。言ったでしょ、彼はマクベリの人なの。取引先なのよ? 消すことはできない」

 それに、消したとしても名刺をいただいているので、連絡先は知っている。
 
「じゃあ、俺も行く」
「行くって……どこに?」
「安浦先生のお見舞いとご自宅に! 明日も行くんだろう? 安浦先生の息子さんに、社長としてご挨拶しないとな!」

 裕貴は高らかに笑うが、私は嫌な予感しかしなかった。
 私は覚悟を決めるように、缶に残っていたビールの最後の一口を、ごくりと飲んだ。
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