幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 安浦先生が入院されて、数日が過ぎた。
 今日は、病室に来ると先生が原稿を書いていた。
 少しだけなら書いてもいいと、医者から許可が下りたようだ。
 しかし、数分も書き続けていると手が疲れてくるようで……。
 私は、先生の腕や手をマッサージしていた。
 
「すまないね、真宮くん」
「いえ、先生には一刻も早く元気になってもらいたいので!」

 私も、友人に手をマッサージしてもらったことがある。
 これが、意外にも気持ちいいのだ。
 
「しかし今更だが、さすがにこれは勤務範囲外だろう。……そうだ。何かお礼をしなければな」
「そんな、滅相もないことです」
「遠慮はいらないよ。私にできる範囲ではあるが、何か望みはあるかな?」

 望み……。
 言われて思いついたのは、小説のことだった。
 
「あの、実は私、小説を書いていまして」
「ほう!」
「ほ、本当、拙いものなんですが! 一度先生に見てもらえたら、と……」
「そんなことでいいのかね?」
「そんなことだなんて、先生に読んでいただけたら光栄です!」
「わかりました。今度、持ってきなさい」
「はい、ありがとうございます!」

 やった! 先生に私の小説を見てもらえるなんて!
 小説はすでに完成していて、昨日のうちに印刷してある。
 今日はそれを見直して、ちゃんと校正したものを見てもらおう。
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