幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 スキップしたい気持ちで家に帰ると、裕貴が私の原稿と、ノートパソコンを開いて見ていた。
 裕貴の様子が、いつもと違う。
 
「……しのぶ。なんだ、これは?」

 あの時のような、低い声で。
 私の小説を画面に映して言った。
 しまった、隠しておくべきだった。

「……何って、小説を書いてるの」
「こんなものを書いてるから、家事がおろそかになるんじゃないのか?」

 束になった原稿を、バシッと机に叩きつけられる。
 
「はぁ!? それは、裕貴が家事を何もやってくれないからでしょう!?」
「話を逸らすな! 今はこれ(・・)の話をしている!」
「逸らすなって……」

 家事の話をし出したのは、裕貴の方なのに……。
 最近の裕貴、おかしい。
 ううん。もしかしたら、私が気づいていなかっただけで、最初からだったのかも……。
 告白とか、頼ってくれることに浮かれて、私、何も見えてなかった。
 
「まさか社長である俺をコネにして、自分の小説を出版しようなんて考えてるんじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょう!? 私はただ、息抜きに好きで書いてるだけ!」

 机に叩きつけられた原稿を手に取ろうとすると、それを奪うように、さっと裕貴が手にする。
 そして、有無を言わさず私の目の前で、原稿を破った。
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