幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「もちろん、嫌なら断ってくれてもいいんだけど」

 安浦先生に会えるとか、そんな下心で引き受けるべきじゃない仕事なのはわかっている。
 でも、このまま就職活動をしてもどこにも雇ってもらえない気がする。
 私は、裕貴の提案を引き受けることにした。

「わかった。私、秘書やるよ!」
「本当に? やった、ありがとう!」
 
 よほど嬉しかったのか、裕貴は抱きついてきた。

「ちょっと、オオゲサ! 私の方こそありがとう。私が全然就職できないから、同情してくれたんだよね?」
「同情じゃねーよ。俺はおまえと一緒に仕事できるの、すげー嬉しくてっ……」

 ん? どういう意味だろう……?
 小首を傾げていると、裕貴は頭を掻きながら、

「あーもう。まどろっこしいのはやめだ」

 そう言って、ジャケットの内ポケットから何かを取り出す。
 それは、リングケースだった。
 裕貴がケースを開けると、小さなダイヤモンドが煌めく指輪が入っていた。
 いくら鈍い私だって、その意味くらいはわかる。
< 3 / 51 >

この作品をシェア

pagetop