幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 じわりとシーツに涙が滲み、慌てて体を起こした。
 もう何もする気が起こらないと思っていたけど、まだ、私は大丈夫だ。
 ようやく少し落ち着いて、今後のことを考える。
 ずっとホテルにいる金銭的な余裕はない。
 実家は裕貴にすぐ見つかってしまう。
 しばらくの間、友人の家に置いてもらうしか……。
 スマホの連絡リストを眺めていて、桐人さんの名前が目に入る。
 
 はっ、そういえば……勢いで家を出てしまったけど、安浦先生のお世話はどうしよう……!
 気難しい先生のことだ、何の連絡もなく担当が変わってしまったら、きっと怒ってしまうだろう。
 そうなると、必然的に会社にも迷惑がかかってしまう。
 裕貴のことは許せないけど、プライベートと仕事はちゃんと分けなきゃ。
 退職届は出してしまったけど、安浦先生が退院されるまでは、お見舞いを継続することにした。
< 30 / 51 >

この作品をシェア

pagetop