幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「い、いえ! そうじゃないんです! 安浦先生は全然関係なくて……!」

 潤んでいた涙を、慌てて乱暴に拭う。
 すると桐人さんは、ハンカチを取り出して、私の目頭に当ててくれた。
 
「僕で良かったら、話してくれませんか?」

 借りたハンカチを、ぎゅっと握りしめる。
 安浦先生に知られてしまったら、穂鷹出版に迷惑がかかるかもしれない。
 息子である桐人さんにも話すことではないのかもしれない。
 でも私は、この問題を一人で抱えることができなかった。

「……安浦先生には、絶対に話さないでください……」
 
 私は、今までのことを桐人さんに打ち明けた。
 桐人さんは、隣で私のたどたどしい説明を黙って聞いてくれた。
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