幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。

6 報復

 あれから一年が過ぎた。
 六月下旬、また憂鬱な梅雨がやってくる。
 今日は、安浦栄次郎の出版記念パーティーだ。
 ホテルの大広間に、穂鷹出版の重役たちや、他の先生方、新聞記者らしき人たちが集まる。
 当然のことながら、社長である裕貴もだ。
 婚約指輪と退職届を置いて、黙って出て行ってしまったことを、きっと怒っているだろう。

 私は、着慣れないセレモニースーツを着て、衝立の裏側で緊張しながら立っていた。
 桐人さんも、チャコールグレーのスーツがよく似合っている。
 
「しのぶさん」

 桐人さんが、優しく肩を抱いてくれた。

「大丈夫です。僕と父に任せてください」

 肩に触れる手の力が、ぐっと込められた。
 そこから伝わってくる温かさで、少しずつ緊張がほぐれていく。
 桐人さんといると……安心する。
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