幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「皆さんもご存知のとおり、私は一年ほど前入院しておりまして。彼女は、その間とても親身になってくれた。何か礼がしたいと言ったら、書いた小説を見てほしいと言ってきましてな。
 ところが、不運にも彼女の元婚約者(・・・・)に、その原稿を破り捨てられ、あまつさえデータまで消されてしまったということがあったそうです。
 しかし彼女はそのショックを乗り越えて、再度原稿を書き上げました。読んでみたら、これがまた面白い」

 先生は笑いながら言うと、再び衝立の方を見て、そちらに来賓の視線が行くよう促した。
 
「では、紹介しましょう。私の弟子、真宮しのぶと、書籍『黒猫カルーニャの気まぐれ』」

 安浦先生に呼ばれて、私は衝立の裏から書籍を持って壇上に登った。
 新聞記者たちのカメラのフラッシュが眩しい。
 でも、これでやっと表舞台に立てる。
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