幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「桐人さん、ありがとうございます。あなたと先生のおかげで、私……見返してやることができました。でも、私はなにもしていない。結局、裕貴の言うとおりなんです。私は……コネを使って……」

 その言葉が口から出た途端、心の奥底で悔しさが沸き上がる。
 こんな形で成功しても、自分の力ではないような気がした。
 しかし、桐人さんの声が間髪入れずに響いてきた。
 
「それは違います! 小説を完成させたのは、しのぶさんの力です! 書籍化してもいいと判断したのは、陽瑛出版の方です! 父は、しのぶさんの才能を見抜いて原稿を持っていっただけです」

 桐人さんはそう言って、私を背中から抱きしめてくれた。
 彼の温かさが、伝わってくる。
 
「誰がなんと言おうと、僕はしのぶさんの味方です。もし、しのぶさんが自分を信じられないのなら……僕を信じてください。僕がしのぶさんの才能を信じます」

 この人は、どうしてこんなにも優しいのだろう。
 どうしてこんなにも、私を信じてくれるのだろう。
 その言葉に、少しだけ心が救われる。
 桐人さんの確かな声が、私の内なる不安を打ち払ってくれるようだった。
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