幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
「桐人さん、お世話になりました。私、この家を出ようと思います」
「……えっ?」

 朝食の後、荷物をまとめて、リビングでコーヒーを飲んでいた桐人さんの前で頭を下げる。
 安浦先生は書斎に籠ってしまったので、まずは桐人さんだけに挨拶をした。
 家政婦の杉田さんも戻ってくる。
 小説を書籍化して、裕貴を見返すことができた。
 私がここにいる理由は、もうない。
 桐人さんは音を立ててカップを置くと、困った顔をして私を見た。

「ま、待ってください。どうしてですか、僕たちは婚約したんですよ」
「はい。でも、仮初ですよね? 裕貴を見返すまでの……」

 まさか、止められるとは思わなかった。
 きょとんとしていると、桐人さんは座ったまま私の手を取った。

「もう、その名前は出さないで下さい。……嫉妬で気が狂いそうになる」
「えっ?」
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