幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 市立中央病院は、穂鷹出版から電車で四駅ほどの場所にある。
 敷地に入ると、エントランスまで五十メートルほどの桜並木となっていて、満開の時期には一般人も桜を見に来るほどだ。
 
 まさか、憧れの安浦先生にお会いできるなんて。
 きっかけが入院でなければ、もっと嬉しかっただろう。
 しかし、安浦先生は気難しい方だと聞く。
 お見舞いの品はこれで良かっただろうか、などで頭の中はパンク寸前だ。
 でも今は、社長の代理として、失礼のないようにお見舞いしなければ。
 病室の扉の前で、何度か深呼吸をしてからノックをしようとすると、いきなり扉が開いた。
 そこには背の高い、スラリとしたスーツ姿の男性がいた。
 
「あ、あ、あのっ……!」
 
 予想外の出来事に、言葉が詰まってしまう。
 
「どちら様でしょう?」
「す、すみません、私、穂鷹出版の真宮と申します!」
 
 慌てて、名刺を差し出す。
 
「ああ、穂鷹出版の方なのですね。どうぞ」

 病室は個室で、中に入るとすでにたくさんのお見舞い品が並んでいた。
 立派な花束に、果物を盛り合わせた籠……。
 私も穂鷹出版代表として、大きめの花籠を用意したつもりだったけれど……。
 しまった、もっと大きいのを用意するべきだった。

「父さん、穂鷹出版の方がお見舞いに来てくださったよ」
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